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それからどれほど時間が経っただろう。

「……ゃ、雄也ってば」

温もりを逃すまいと抱き締める腕の所為で、いつの間にか恋人は痺れを切らしてしまったらしい。と言うか、いつから起きていたのだろう。コトの終わりのように湿った感覚がした彼は、寝ぼけ眼を二三度瞬かせた。ようやく不機嫌に口を尖らせる恋人が目に飛び込んでくる。何だこれは。この可愛いのはもしかして、自分を誘っているのだろうか。
到底そんな甘い空気ではないのに、寝起きでぼんやりした頭は、なぜか間違った方に解釈を促した。それなら期待に応えてやろうではないか。くるりと体位を変えて圧し掛かる。

「へ……?」

予想だにしていなかったらしい恋人は、自分より大きな目を存分に開いた。同時に開きっぱなしになってしまった唇に、獣が食いつく。

「んんっ…んー…!!」

恋人は彼を気遣う素振りも見せず、がむしゃらに胸を押した。口内に叫びにも似た唸りが響く。言いたいことはよくわかる。きっと「朝から何盛ってんだ!この変態!!」だろう。
付き合い始めて2ヶ月、と言ったところだろうか。まだまだ「好き」の熱が退く気配の無い2人はラブラブ進行中だった。

しばらく舌を、唇を弄ばれ、解放されて見上げれば、彼はすっきりした顔をしていた。眠り姫でもあるまいし、キスで覚醒するなんてどうかしてる。しかも、夢に見るような優しいキスではなく、厭らしい疼きを持たせるような官能的な接吻だ。

「はぁっ、はぁ…」

キスの余韻でぼんやりしていた恋人は、全裸の彼が部屋から出て行っても、声をかけることすらできなかった。同じく自分も全裸だ。ゆるやかに反応してしまっているモノを見られないようにとシーツを手繰り寄せた。

齢16歳。結城次郎、来栖雄也と同じく、健全男児。


――この部屋に移り住んでから早3ヶ月。
鉄道の最寄り駅まで徒歩10分の2LDK。家賃は雄也が生家の「来栖」で落とされているらしい。そもそもここは、雄也のためにあてがわれた部屋らしかった。だが拠点にはしていないようで。

「俺だって家賃とか払いたいのに」

正直助かってはいた次郎だったが、雄也が部屋に連れてきた理由「バイト入りすぎだ」という言葉通り、今もまだバイトを続けていた。そのため、どうにも罪悪感を拭いきれないでいた。

文字通り重たい体を持ち上げてみる。
すると、かぶっていたシーツがはらりと零れ、暗い部屋で素っ裸状態になった。
エアコンが効いているためそれでも寒くはなかったが、いつ雄也が戻ってくるかは分からない。

素早く端から端まで視線を移した次郎は、目当てのものを見つけると手を伸ばして引っつかんだ。毎夜雄也に脱がされそのままポイなものだから、起きたらまず探すのが1だ。

スウェットとTシャツを身に付けた次郎がリビングへ顔を出すと、たくましい背中がキッチンに立っていた。どうやら炒め物の所為で音が聞こえないらしい。

料理に集中している彼を眺めるこの瞬間、次郎はとてつもなく幸せだと感じてしまってならない。
顔が良く、金持ちで、頭も良い、才色兼備。そんな好きな人が、自分のために、不器用なりとも手料理を拵えている。

視線を感じたらしいその人が、肩越しにこっちを見る。視線が合わさると同時に、優しく細まるその瞳。胸がきゅうっと苦しくなる。

「雄也っ」

「…危ねえよ」

「なんかすごい、こうしたくなって…」

背中から抱きついた手で腰の上でそっと腕を組む。広くてたくましい大きな背中。ごつごつして、柔らかさの欠片も感じない。一般男性なら、何が良いのかと嫌悪されてしまうだろう。だが次郎は、自称もしている通り、自他共に認めるホモだ。

「こうはしたくないか?」

危ないと言ったくせに。
吸い込まれるように。その言い回しが正しいだろう。雄也の頭が傾き、2人の唇は重なっていた。カチッと、彼の右手はガスを止め、左手は次郎の腰へ。そのキスは一つ一つが短くて。次郎はまっすぐ前を向いた状態で、一々唇を離ししつこく吸われる。そんなキスを、甘んじて受け入れていた。西洋映画にでも出てきそうな、日常的で、相手を愛しむようなそれ。次郎は身も心もとろけてしまいそうだった。






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