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「なんだよ。案外元気そうだな」
「うるせえ。です」
次の日、また朝練に憎い顔が来た。
朝からまぶし過ぎる顔が。
目を細めた俺は、隣に座ってくる南條先輩を一瞥して溜息をついた。
「朝練が――」
「んなもん明日もできるだろうが。今日は俺と話しとけ」
「……」
「良かったのか?」
「…良いも悪いも、俺が決める事じゃないし、どうこう言える権利もない。…先輩には幸せになってほしいんです」
「あいつの幸せ、ねえ…」
まるで他人事の様に空に呟く南條先輩。
この人本当に先輩の友達か?友達ならもっと気持ちを込めて――、
「それは俺らが決める事じゃねえだろ」
「…と言いますと?」
「あいつにとって何が幸せで、何が不幸せかってのは、人様が決めて良いもんじゃねえんだよ」
そう、なのかな。
でも俺は、先輩は告白してくれた女の子と一緒になる方が幸せだと思ったんだ。
ちょっと話の内容が難しい。
頭がパンクしそうで、悲しくて、そんな時見た南條先輩の顔は、何故だか楽しげに笑っていた。
「ちなみに」
いや、妖しげに笑っていた。
「俺の幸せは、結城と付き合う――」
「ごめんなさい即お断りさせていただきます」
「てめえ!」
何が楽しくて南條先輩なんかとお付き合いせにゃならんのだ。
意地悪だし、とことん俺様だし、怒りっぽいし、かっこ良過ぎるし…
俺が段違いにつりあってない。
「問答無用だ!俺と付き合え!」
「いや、絶対!ぜええったい無理です!!」
「うんと言え…さもないとここで、犯す」
「…………」
――ろ、次郎、
「はっ!」
「次郎、お前よく寝るよな…」
あ、れ、雄也?
ってことはこっちが現実で…
「何回起したと思って――」
「雄也ぁぁぁぁぁっ」
「うおあ!」
――どさっ
怖かった!何なんだ今の夢は!
リアル過ぎるんだよ!っつーかリアルで一回体験してんだよ!!
なんであんなのもう一回経験させるんだ!
「積極的だな」
「……え、いやー、はははー」
勢いあまって押し倒してしまった俺に、
悪魔のような笑みで大人しく組み敷かれる雄也。
俺、どうしたらいい?
夢でも現実でもこんなことになるなんて…
俺ってどんだけエロいんだ。
初恋が実っていたら、
今の俺はどうなっていたんだろう。
もしかしたら先輩とずっと一緒に居たかもしれない。
もしかしたら雄也と出会えてなかったかもしれない。
もしかしたら。
今でもまだ、時々先輩の事考えたりする。
それにはいつも南條先輩がセットだ。
自分の幸せは、自分にしか分からないし、決められない。
でも今の俺は、確実に幸せだって言えるから。
先輩も幸せだったらいいなとか思える俺は、
前よりずっと成長してるし、
させてくれたこの人の隣にずっとずっと居れたなら、
俺はその分幸せで居れると思うんだ。
今度ちょっと、雄也の初恋の話でも聞いてみようかなとか思うけど、
こっちのこと追求されそうで、…うん。聞ける気がこれっぽっちもしない。
ーendー
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