▼1




たまに思うんだ。


もし初恋が実っていたら、今の俺はどうしてる?




「あの人」が俺の前に現れたのは、本当に突然だった。




「あれ、きみ…何やってるの?こんなところで」


「ふぇぇぇっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「ちょっと、落ち着いて…」

初めて会ったのは小学4年の夏。俺がまだ家族と暮らしていた頃だ。
よく笑って、よく泣いてた。


「なるほどね。友達と野球してたらこの家にボールが入っちゃって、取って来いって言われたけど、怖くて入れないってわけか…」

人生で俺の泣き顔を一番見ているのは先輩だと思う。

めそめそ落ち込む俺の頭を片手で掻き乱す先輩。
次に顔を上げた時、なんてまぶしい人だろう。そう思った。

「俺が取って来てあげるよ。だから泣かないで?」

「ひっく、う、んぅ。わかっ、た」

「いい子いい子」

「こわっ…く、ない?」

「だいじょぶ。俺知り合いだから」

「よかっ、たぁー」

先輩は涙が止まらない俺を優しく慰め、さらにはボールを取ってくれると言う。
幼い俺は、神様かと思った。ピンチに現れてくれるヒーローかと思った。

ただその家に入っていく先輩の背中を見送る俺。やけに丸まってそろそろ動いていたのだが、ヒーローに夢中な俺はちっとも不思議と思わない。

そして数分も待たずして慌しく飛び出てきたヒーローは、俺の手をひっ掴み、

「走れ!!」

「へ?」

「いーから走れ!!」

「う、うん」

短い歩幅で駆け出した。

背後で怒鳴り声がして心底怖かったけど、掴まれた手の体温ですぐに吹き飛んだのを覚えている。






prev next

- 1/24 -

しおりを挿む

表紙
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -