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たまに思うんだ。
もし初恋が実っていたら、今の俺はどうしてる?
「あの人」が俺の前に現れたのは、本当に突然だった。
「あれ、きみ…何やってるの?こんなところで」
「ふぇぇぇっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ちょっと、落ち着いて…」
初めて会ったのは小学4年の夏。俺がまだ家族と暮らしていた頃だ。
よく笑って、よく泣いてた。
「なるほどね。友達と野球してたらこの家にボールが入っちゃって、取って来いって言われたけど、怖くて入れないってわけか…」
人生で俺の泣き顔を一番見ているのは先輩だと思う。
めそめそ落ち込む俺の頭を片手で掻き乱す先輩。
次に顔を上げた時、なんてまぶしい人だろう。そう思った。
「俺が取って来てあげるよ。だから泣かないで?」
「ひっく、う、んぅ。わかっ、た」
「いい子いい子」
「こわっ…く、ない?」
「だいじょぶ。俺知り合いだから」
「よかっ、たぁー」
先輩は涙が止まらない俺を優しく慰め、さらにはボールを取ってくれると言う。
幼い俺は、神様かと思った。ピンチに現れてくれるヒーローかと思った。
ただその家に入っていく先輩の背中を見送る俺。やけに丸まってそろそろ動いていたのだが、ヒーローに夢中な俺はちっとも不思議と思わない。
そして数分も待たずして慌しく飛び出てきたヒーローは、俺の手をひっ掴み、
「走れ!!」
「へ?」
「いーから走れ!!」
「う、うん」
短い歩幅で駆け出した。
背後で怒鳴り声がして心底怖かったけど、掴まれた手の体温ですぐに吹き飛んだのを覚えている。
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