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新しくコーヒーを淹れ直したらしい雄也くんが戻ってきて、ソファに座った。不貞腐れたような、渋い顔をしている。
「くっそ。大笑いしやがって…」
そんな雄也くんに、俺はまだ伝えていなかった感謝を述べる。
「んふふ…これ、ありがとう。マフラーぼろぼろだって気付いてたかんじですか?」
「んー、まぁ。言っちゃ悪りいけど、コートとか手袋とか、お前冬用のやつ使い古しすぎ。モノ持ちいいとか言う次元じゃねえから。定期的に買い換えねえと、防寒効果も薄くなってくもんだぞ」
「うん。だよね……。でもこのマフラー大事にするよ。雄也くんの心が篭ってる気がするし」
手作りじゃなくても、こうやって真剣に選んでくれたら心って自然と伝わるんだな。と、雄也くんが俺の反応に一喜一憂するのを見て思った。いっぱいいっぱい悩んでくれたんだろう。お店で何時間も悩んで、店員さんに相談したり。プライド高いから、もしかしたら一人で悩んでたり?…とにかく嬉しい。こんなに心が篭ってたら、もう何だって嬉しいよ。
好きだな…。
「ん?え…」
「ん?」
好きって何。いや、そういう気遣いができる人が好きって意味ですよ。一生懸命で好きだなーって。あはははは。あはは、はは…
そんな馬鹿な。
俺が雄也くんを?なんて、恐れ多いですよ。
それに俺フリーじゃないし。もうやだなー…あはは。
「おい大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。違う世界に行ってた…」
「は?」
今日、俺は、雄也くんにたくさん力を貰った。
「なんだそれ…変なやつ」
「な!雄也くんは店員さんに「変な客」って思われただろうなー」
今日のバイト中とは比べ物にならないほど、心が温かい。
雄也くんと一緒にいると、内側からポカポカしてくるんだ。
「っおい!んなわけあるか!…つーかお前まだ「くん」付けとか…」
そろそろちゃんと、ケジメをつけなきゃいけない。
俺は雄也くんのつぶやきがおかしくて、首を傾げてわざと甘えた声で言った。
「え、ごめん。また聞こえなかった。雄也、もう一回言って?」
「聞こえてんじゃねえか…!!」
真っ赤になって怒っているのか照れているのか分からない顔を背けた雄也くんは、暫く押し黙った後、急に振り返って抱きついてきた。
「っ来年も、また……」
そうだね。来年もまた、一緒に過ごせたらいいな。
雄也くんに対して、まだ自分でもどういう感情を抱いているのか分からない。
来年ももう一度、こんな温かなクリスマスを過ごせたらいい。そんな、生まれたての新しい想いを胸に抱えたまま、大きな背中を抱きしめて、そっと瞼を閉じた。
fin.
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