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「礼を言うのはまだ早いぜ。実は見せたいものってのは別にあってな」


いつも淡々と話す雄也くんの声色が弾んでいるような気がしてこっちが嬉しくなってくる。

雄也くんと一緒にベランダに出ると、そこに広がる景色にびっくりして言葉が出なかった。


「どうだ?すげえだろ」


手すりに掴まって下を見下ろす俺の後ろから、俺を包み込むように雄也くんも手すりに手を置く。
すごいだろ?と聞かれて、俺は何度も頷いた。


「す、すげぇ!すげえー!」


眼下に広がっているのは、なんとさっき素通りしたイルミネーションの広場だ。あの時は人混みに隠れて一瞬しか見えなかったけど、ここからだと全体が見下ろせる。きらきらと見る場所を変える度に様々な表情を見せる光のつぶは、まるで星空の様だった。
予想もしていなかったサプライズに、俺は目が熱くなって雄也くんの顔を見れなかった。

人との間に壁を作って、イベント事を避けて、わざと暗い方へ進んでいこうとする俺に優しく手を差し伸べてくれる人。
雄也くんは陸とは違う。別人なのは当たり前だけど、


「雄也くんってほんと…神様?魔法使い?」


俺のことを見てくれる。


「神様でも魔法使いでも、天使でも悪魔でもなんでもねえよ」

少し呆れた笑いを含む声。涙ぐむ俺に気付いて頭を撫でてくれる重みのある温かな手。何度瞬きをしても消えない、夢のようなイルミネーションの煌き。
今までで一番素敵なクリスマスだ。


「――神様でもなんでもない、お前のことが好きな、ただの男だよ」


「…え、何?」

雄也くんが小さい声で何か言ったと思って振り向くと、「気にすんな」って言いながら、眉を寄せた顔を背けた。
気にするなって言われても気になるような顔だった。不機嫌な顔じゃない、切なげな印象のその顔は、“前に見たそれ”とダブって見えたから。
また、何か抱えてるのかな。それでそれは、今度は俺には聞かせられない内容なんだろう。
なんだか嫌な感じだ。変だ、俺。

「そろそろ寒くなってきただろ。部屋入んぞ」

そう言って窓を開ける雄也くんについていきながら、もやもやな気持ちを持て余していた。







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