▼8
雄也くんに導かれて中に入ったところで、俺は目を開けることを許された。
すっと外される目隠し。目に飛び込んできたのは――、
「うはぁぁっ」
色とりどりの電飾や置物によってクリスマス風に飾られた部屋だった。外観から期待を裏切らない豪華な室内に所狭しと並べられた置物はどれも可愛くて、その中でも目を引いたのが、部屋の隅に飾られた、身長大のツリーだった。
ツリーには天使や球状のオーナメントや雪を模した綿が飾られていたりと抜かりなく作り込んである。
「どうだ、気に入ったか?」
ツリーに夢中になって食い付いていた俺は、背後から楽しそうに言う雄也くんに笑顔で振り向いた。
「うん!すごく奇麗で、可愛くて…これ、雄也くんが?」
所々いびつに歪んだ個所があって、手作り感がある。
すると雄也くんは照れているみたいで、ほんのり赤く染まった頬を指で引っ掻きながら視線を外してしまう。
「まぁ、な。お前がこういうの好きなんじゃねえかって。ここは叔父の別宅でな。今日だけ貸してもらったんだよ。…一般人のクリスマスってのも、悪くねえな」
「俺のため…?ありがとうっ」
一般人のクリスマス…。
雄也くんはお金持ちだから、きっと自分でクリスマスの飾りつけなんかしたことがないのかもしれない。
俺は小さい時に兄貴と武井さんとでやった記憶があるくらいで、はっきり覚えているわけじゃないけど、あの時の楽しい気分を思い出して、心がふんわり温かくなった。
もう一度クリスマスにこんな気持ちになれるなんて…。それも雄也くんが、庶民で貧乏な俺の為に。
どうしたんだろう。俺、さっきから胸が痛い。きゅんきゅんして、切なくて苦しくて泣けてくる。
今無性に聞いてみたい。どうして俺に優しくしてくれるんだって。ただのお人よしにしては度が過ぎる。もしかしたら、一般のクリスマスを知りたかっただけなのかもしれない。そう思ったら、少し寂しくなった。
俺が喜んだことに気を良くしたのか、雄也くんは機嫌が良さそうに俺の肩に手を置くと、そっとベランダの方へ押し出した。
□しおりを挿む
□表紙