▼7




駅から5分…10分はいかないと思う。
とにかくあまりかからずに、雄也くんの歩調が緩やかになり、そして建物の中へと向きが変わった。


「…………え!」


その建物のあまりの豪華さにはたと立ち止まってしまった。
間接照明によって金色にも見えるアプリコット色のタイル張りの建物は、二枚の大きな自動扉が入り口のようだ。そして首が痛くなるほどたくさんの階数がある。こんな住宅地に一流ホテル!?と思ったけど、部屋番号とポストらしきものがずらりと並んでいるからにはマンションらしい。
雄也くんは繋いでいない方の手で鍵を取り出すと、別途に設置されたパネルに挿入し、慣れた手つきで暗証番号を入力した。


「…よし。いくぞ…っておい早く来い。離れんな」


解除音を聞いた雄也くんは中に入ろうとして不機嫌そうに立ち止まった。まだ動けずにいる俺の手と雄也くんの手がはずみでポケットから出てしまったのだ。離れそうになるふたつの手を、雄也くんが放すまいと握り締めて引き寄せる。ぼーっとしていた俺は、不意に引き寄せられた衝撃で、雄也くんの胸の中に飛び込んでしまった。途端に心拍数が跳ね上がる。


「ご、ごめんっ」

「いや……」


俺は弾かれた様に少し距離を取ると、真っ赤になりながら俯いた。さっきから心臓がドキドキしすぎてうるさい。これがクリスマスマジックというやつなのか。雄也くんの雰囲気も態度もいつもと違うから戸惑うことしかできない。
この繋いだ手も、どうして今日に限ってなのかよく分からないし。ただ単に、今日が凄く寒いから…ってだけ?

隣に並んだ俺の頭を遠い方の手で軽くかき乱すと、それで満足したらしく再び力強い足取りで開いた自動扉をくぐった。俺はと言うと、視界を遮る髪を急いで直しながらついていくのにやっとだ。雄也くんが素通りした、やたらと丁寧で小奇麗な管理人さん(世はコンシェルジュという)に会釈しながら、続いてエレベーターに乗った。フロントに高そうなソファや植物があってホテルのラウンジみたいになっていたのは気のせいかな。
全てが場違いな気がして落ち着かない。

清潔感のある白で統一された重厚な造りのエレベーターを降り、綺麗に手入れをされた絨毯張りの廊下の途中で雄也くんは立ち止まった。持っていた鍵を使ってまた暗証番号を入れるとドアを押す。
緊張しっぱなしで吐きそうだ。雄也くんの普段と変わらない横顔を見上げながら、ふと思った。俺がこの人の隣にいていいのか…って。友達同士だけど、おかしいくらい釣り合ってない。マンションだと分かっていても、こんなみすぼらしい俺が居て追い出されやしないかとそわそわ落ち着かなかった。

真っ暗な部屋に連れ立って入ると、頼りにしていた廊下の光も扉の向こうに消え、完全に光を失った。雄也くんがまた手慣れた感じで電気をつけてくれるのだと気を抜いていた俺は、自然と離れた手に言葉を失う。手と手が離れた途端、俺の心は隙間風が吹いたように急に冷めていった。音の無い暗闇の中、たった一人で取り残されたような気がしてくる。


「見せたいもんってのはこの奥にあるから…。目ぇ開けんなよ」


さっきのイルミネーションじゃなかったのか!
そう驚いている間に、雄也くんの手に目を塞がれてしまう。目でもいい。その体温が、声が、俺を不安から解き放ってくれた。






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