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それから5分近く歩いていくと、前方に人だかりが見えた。
ここは、近辺で2番目の規模を占める駅だ。ちなみに最も主要な駅はもう一つ向こう側の駅で、いつもそちらに人が流れがちだからライバル視しているらしい。
とは言えファッションビルが立ち並ぶ大きな駅だ。いつも賑わってはいるけど、今日はその意味が少し違うような気がする。
俺が働くカフェにも広告が貼ってあったっけ。
『聖夜のイルミネーションに天使が舞い降りる』
うる覚えだけどキャッチフレーズはたしかこんな感じだった。
客寄せのために、駅前の広場を中心にライトアップする計画みたいだけど、クリスマスイベントを避けていた俺はまだ見ていない。

俺は目の前の光景に息を飲んだ。俺たちがちょうど通りかかるタイミングで、人垣が移動し、少しの間だけ広場の様子が後ろの方からでも見えたのだ。
駅前の広場に天まで届くんじゃないかと思うくらい大きなもみの木が立っていて、天使が飛んでいたり、デザイン性のある靴下がぶら下がっていたりと奇麗に飾りつけされている。その周囲にはポインセチアの植え込みがあったり、天使を模した植木があったりとクリスマスの雰囲気が溢れていた。


「すごい……」


雄也くんが見せたかったものってこれかな?
感動してお礼を言おうと顔を上げた途端、なぜか雄也くんは踵を返して駅とは逆方向に歩き出した。


「ゆ、雄也くん!?」

「ん?」


機嫌を損ねたかと思って窺うように尋ねれば、平静と変わらない声で少し遅れて着いていく俺を振り向いた。


「あの、見せたいものってあれじゃないの?」


すかさず聞くと、雄也くんは少し黙って、それでも足を止めようとはしない。


「…ついてくれば分かる。黙って俺について来い」

「は、はい了解です…」


黙って俺について来い…って。甲斐性ある言い方にドキリとする。ただ単に俺様なだけかもしれないけど、これくらい引っ張ってってくれる方が安心できるなと思った。

道順に迷うことなく雄也くんは暗い夜道を歩いていく。
駅から少し道を入るだけで喧騒が遠退き、落ち着いた雰囲気の住宅地になった。俺は初めて来る場所に密かな不安を感じていたけど、隣を歩く雄也くんがとても頼りにできるので落ち着くことができた。白い息を吐きながら、温もりを感じる手の感触に頬を緩める。
今はただ何も考えずに、雄也くんが傍に居てくれるという気配だけを感じていたかった。






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