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2年前の今日、俺は人生というものに絶望した。
クリスマスと言えど、俺にとっては生まれてこの方他の人よりもイベント性が無い。武井さんが海外に行ってしまってから特に。武井さんがいた時はプレゼントをくれたり、ケーキを用意してくれていたから。
同じ食卓を囲むから料理はいつもより豪華になって嬉しかったけれど、お母さんが俺にくれるのは、毎年決まって板チョコだった。理由はよくわからないけど、俺がそれを望んでいると本気で思っているみたいで、何も言えなかったんだ。
それでもお母さんや兄貴がいつもより笑顔を見せてくれるのが、何より嬉しくて、イブに囲む夕ご飯が楽しみだった。
その2人が家を出て行ったのが2年前のクリスマスイブ。
冬休みの部活帰り。街の雰囲気に浮かれてうきうきして帰ってきたというのに、家はも抜けの殻だった。


神様って本当にいるのかな。
いたらこんな残酷なことしないよね。
キリスト教の記念日なのに、俺は神様に見放されてしまったんだ。


そしてまた今日も。





陸にメールしたけど通じない。
インターネットでRIKUって調べたら、今日はクリスマススペシャルライブに参加するらしい。
最近の陸のスケジュールは全部ネットで確認している。
俺たち、本当に付き合ってるんだよな…。やっぱり里利子さんの言う通り別れた方がいいのかな。
陸の代わりにとばかりに家で過ごさないかと誘ってくれた里利子さんの誘いは、何日か前に断ってしまった。

更衣室に入ってすぐケイタイの電源を入れると、メールが一通入っていた。どうせ迷惑メールかどこかのクーポンだろうと思いながらも陸からのメールじゃないかと期待してしまう。受信ボタンを押してエプロンを外し、身支度をしながらもう一度確認すると、なんと相手は 来栖雄也。雄也くんだった。

雄也くんは1ヶ月前に初めて対面した人で、出会い系サイトで知り合った超イケメン。なんでサイトに登録したのかぼんやり聞いたところによると、視野を広げたかったとかなんとか。あれから3回ほど会ったけど、冬休みに入ってから「会いたい」メールが多くなった。俺は学校無いからあれだけど雄也くんは俺にメールするくらいすごく暇みたいだ。冬休みに入る頃くらいからバイトが忙しくなってきたから断わり続けていたし、今日は絶対にメールが来るはずないと思ってた。だって女の子か男の子かわからないけど、誰かと過ごしてるだろうし。
用件が気になった俺は、両手で携帯電話を握り締めてメールを開けてみる。そこには一言、


『バイトが終わったら会おう。外で待ってる』

「……………え、」


外ってどこの外で?いやそもそもバイトの終わり時間を言ってない。いつもより時間を延長して働いてるのに。それにどうして今日働いてるって分かったんだ。いやいや都合よすぎるよ俺。これ間違いメールだったらどうすんだ。
心臓がドキドキしっぱなしで首から上が急激に熱くなる。どうしよう。間違いメールじゃなかったらどうしようこれ。今まで沈んでたのが嘘みたいに嬉しさがこみ上げてくる。


「いや……期待するのはよくない」


使い古したモッズコートに毛玉だらけのマフラーをぐるりと1周半させてから、鏡に映った自分の姿が見ていられなくて目を伏せた。せめて稼いでるんだから服くらいはまともなもの用意しとけばよかったな…なんて。
でも俺は、貯められるだけ貯めなきゃいけないから。

外は真っ暗だった。
下がっていたテンションが逆に振り切ってまた戻ったから、いつもと変わらない気分のままマフラーに首を埋めて裏口から店を出た。途端に身を切るような寒さが襲ってくる。今年は平年より寒いんだそうだ。
外で待ってるってのがほんとなら、表の方にいるかもしれない。このまま裏から帰ったら雄也くんは待ちぼうけ……


「期待、なんか……」


してない。もう誰にも期待なんかしない。





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