▼1
(※平凡くん1章の巻末番外編を読んでからの方がネタバレが無くていいかも(・∀・)です。読んだ方やネタバレおkの方は引き続きどうぞー)
今日は街が一際輝きを増して、冬の寒さに負けないくらい温かい気持ちになれる、恋人たちの日。
それなのに、俺の心は沈んでいた。平常がプラスマイナスゼロなら、今はマイナスに針が振れている。とにかく底を突きぬけるくらい寂しくて悲しくて。街が眩しければ眩しいほど、落ち込んでしまう。
寄りそうカップル。大きなプレゼントが入ったボックスを抱える子供、それを見守る家族。ケーキやフライドチキンを美味しそうに頬張る客。
あの幸せは、俺には手に入らない。
「次郎、お前もうあがれ。体調悪いんだろ」
「えっ?」
カウンターでコーヒーカップを磨きながら店を眺めていると、その隣にいつの間にか店長がいて同じように店内の動きを見ていた。
あまりに素っ気ない言い方だったから、何のことか分からなくて驚いたまま顔を上げる。
「顔色が悪い。いつもより長いこと働かせて悪かったな。お前が帰ってもバーの連中に30分早く来るように言ったから支障は無いだろう」
クリスマス嫌だなと思っている内に酷い顔をしていたらしい。
最初から決まっていたかのような仕事の速さに、俺は焦った。
「え、ちょっと待ってください!俺体調悪くなんかないですっ。この忙しいのに抜けてなんか――」
実際店内はカップルだらけで、注文を受けるウェイターは行ったり来たり。洗い物は増える一方。これ以上客が激しく入れ替わらないにしても、忙しいのは間違いない。自分が抜けて、迷惑を掛けたくなかった。
「次郎、もういい」
「っ…すいません」
俺の声を遮った店長の眼差しは力強くて…。反論の言葉が出て来なかった俺は、今拭いていたカップを棚に戻すと、後ろめたさが残る脳内を振り払うように深く頭を下げた。
ここ数日間今日この日のことを忘れたくてひたすら働いていたから、ちょうどいいリフレッシュになるかもしれない。良い方に考えないと、負のスパイラルに溺れてしまいそうだった。
□しおりを挿む
□表紙