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「っ、の…へんたい、…絶倫、…鬼畜」
あれから引きずられるようにして、雄也の部屋へ連れていかれた次郎は、ベッドの上で素っ裸に剥かれ、あれよあれよと「お仕置き」されて今に至る。未だ身に残る違和感に起き上がれず、自分の両手首に残る紫に変色した痕を撫でて何もできずにいると、気を失う前のことが脳内に浮上してきた。
『他の野郎がそんなに良いか?』
『俺を怒らせたらどうなるか、理解できるだろ?…そんなに激しくされたいか、このド淫乱』
『言えよ。ご主人様って。「淫乱次郎にぶち込んでください」ほら口開けろ。言え』
「…っぅ」
響いてくる声に、弱々しく呻く。思い出してぞっとした。
最中は淫猥な空気に麻痺していた感覚も、今ははっきりしている。なんと恥ずかしすぎる台詞だろう。実際に口にしたかどうかは、控えさせていただく。
雄也からたまに出る凶暴性が、次郎にとっては恐怖であり、新鮮であると同時に、嫉妬してくれている喜びも生まれる。だからと言ってわざと嫉妬させるようなことは無い。怒りを性によって訴える雄也には、体がいくつあっても足りないから。
「…大丈夫か?」
不意に遠慮がちな声が、頭上から降ってきた。
枕に抱きついていた次郎は、びくりと体を揺らすが、聞こえていないふりをする。
体を酷使した後はこうして拗ねるのが、次郎である。
雄也は、もう何度目か分からないほど数を重ねた慰めの言葉を、優しく髪を梳きながら連ねた。
「悪かったよ。嫉妬して。自分でも抑えられなかった」
たった一行じゃ、ぜんぜん足りない。
「…機嫌直せよ。今日はいっぱい甘やかしてやるから」
今日だけ…?
「……そんなに堪えたか?」
急に雄也の声色が曇った。
次郎の身に傷を作ってしまったのかと心配しているのだ。
こうなってしまっては、ばつが悪い。
「ばか…」
ごろりと、枕を抱き締めながら仰向きになった次郎は、膨れっ面を作りながらじっと睨んだ。それを見た雄也の瞳は一瞬大きくなり、すぐに薄められる。愛しくて仕方ないという顔だ。甘い表情にどきりとする。
「ばかっ」
馬鹿としか言えない次郎の額に、雄也の大きな手が添えられる。
「よしよし。……可愛いな」
「…っ、眼科行ったほうがいいよ」
「そうか?俺が可愛いって言ってんのは見た目だけじゃねえけどな」
「…ばーか」
ぼそりと言った後枕を放した次郎は、雄也によって優しく抱えられながら半身を起こした。腰を労わるその動作に、愛されているのだと胸が温かくなる。自分に向けられる、こんなに率直な好意。
宥めるように頬を髪に摺り寄せられ、されるがままで、ため息が出た。これでは甘やかすと言うか、甘えられていると言うか…。
「大きい赤ん坊ですこと」
「…お前にだけ、な」
言ってまだ頬を寄せてくる雄也に抱き締められた次郎は、
「うん……」
この幸せを噛み締めるように、ゆっくりと頷いた。
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