the lonely dragon | ナノ


▼2


猛々しく燃え盛っていた業火が遠ざかっていく。自分の呼吸が遠ざかり、溺れるような闇に沈んでいく…。息苦しさに目を開けると、薄い光が差し込んできた。視界が黒から白になり、瞬きをしている内に白が霧のように引いていく。

「………」

重たくて、再び閉じてしまいそうな瞼を何度か瞬くと、ようやく慣れた眼に白い天井が映った。とても高く滑らかで、「立派な造りなのだ」と状況の把握をする前にぼんやり思う。天井が遠い。自分は横たわっている。それも上質な布の上に。妙に身体がだるかった。いたるところに突っ張るような締め付けるような違和感がある。一番気になった額の締め付けを辿った。かけられている薄布から手を出し…その動作でさえ覚束なく緩慢になる。

「……っ」

力の入らない手で触れると、荒い目の布地が触れた。包帯、だろう。傾いだことで手の甲にさらりと長い前髪が触れる。鼻先に白い線が幾重にも現れた。そのまま視線を腕に向けると、感じていた予想以上の状態だった。肩から肘の下、そこまで包帯でぐるぐると巻かれている。同じく左腕も指先から二の腕まで隙間なく。元々色素が薄い肌なので文字通りの真白だ。髪も白く、四肢も白く、その上包帯まで巻かれ、身につけている一続きの装束まで白い。全身から色が、抜け落ちてしまったかのようだ。首しか動かせないまま不思議な気分でいると、音もせずに影が落ちた。

「ご気分はいかがですか?」

水面を静かに揺らすよう。染み渡るような声だった。声は男性だとすぐに分かる低さだったが、発声の仕方だろうか。それまでの気分から解放されるような、そんな声に視線を上げる。立っていたのは声の通り、穏やかな笑みを目元に浮かべた青年だった。柔らかそうな茶髪で、どちらかと言えば垂れ気味な淡い蒼眼。身なりは小奇麗にしていて、身につける装束は、自分が着けているものと違って肩から足首まですっぽり覆うスタイル。長い布を身体に巻きつけるという出で立ちだが、腰の紐には巾着がいくつも下がり、骨がしっかりした両の手首にはきらびやかな腕輪が幾重にもはまっている。

「ああ、喋らないでください。とは言っても、出ないかもしれませんが。喉が爛(ただ)れてしまっているので、無理に使えば、吐血する可能性があります。…どうですか?」

爛れている。理解が追いつかずに眉間を寄せると、米神が引き攣るような痛みを発して頭痛に変わる。途端にガンガンと内側から殴られるような感覚が襲った。よほどひどい顔をしていたらしく、相手は立っていた膝を折って身を乗り出し、心底心配そうな様子だった。

アリー…。

頭痛の激しさで霞んだ視界の中、輪郭がぼやける目の前の人物に、良く知る侍従の顔が重なった。




prev next

- 5/37 -

しおりを挿む

表紙