the lonely dragon | ナノ


▼2



シュリは逸る胸を抑えながら近付くと、恐る恐る布の中へと滑り込んだ。滑るような肌触り、上も下もひんやりすべやかなもこもこで包まれる感覚。シュリは自分でも蕩けてしまうのではというほどにんまりと頬を持ち上げ微笑んだ。

(うわ…うわぁ……気持ちい、嬉しい!!)

そのまま膝を抱え込んで蹲ってみる。まるで誰かに優しく抱きしめられているような心地よさに目眩を起こしそうなほど興奮して、ごろりごろりと転がった。
遠くの方でカーテンを閉める音がする。

「シュリ様、この中は3階までございますのでご自由に歩き回っていただいて大丈夫です。あと、塔内部の花壇には我が国の国花が咲いているのでそちらもご自由に。この上の2階に食事を取れるリビングルームがあるのでそちらで3食とっていただきます。3階は浴室や洗面にお使いください。…シュリ様?」

シュリが反応しなかったからだろう、レフィルが不思議そうに言葉を切る。それに気付いたシュリは、布の中から抜け出し慌てて寝台の上に立ち上がると、その拍子にスルリと滑ってもふもふの中に埋もれてしまった。

「だ、大丈夫ですか!」

天蓋越しだったが影と音で何が起こったか察したレフィルが慌てて駆け寄ってくる。しかしすぐに呆気にとられて口を開いた。

「シュリ様……」

布に埋もれたシュリは、その中で肩を揺らして笑っていたのだ。
口を開いてはいるが、音の無い、顔だけの笑み。
しかしシュリは涙が出るほど心の底から可笑しかった。
楽しいのと嬉しいのがごちゃまぜでどう表せばいいか分からないほどに。

レフィルはすぐに微笑ましげに眉尻を垂れると、何か言いたそうに一度躊躇った後、頭を横に振った。

「やっぱり、殿下でなくてはダメなのです。早く会いに来てあげてください…」

その後笑いが引いても流れ出る涙の止め方が分からないままどうしようもなく悲しくなって、隠れるように布の間に潜り込んだシュリを知らず、レフィルの呟きは誰も聞くことはなかった。




prev next

- 36/37 -

しおりを挿む

表紙