the lonely dragon | ナノ


▼殿下の計らい



結局その日の外出は、シュリの体調が良くないということでキャンセルされた。

そしてそして、シュリの部屋がようやく「離れ」にこさえられたというので、移動することになった当日。

「殿下、ご自分で部屋をあつらえたと教えて差し上げれば良いのに…」

(………?)

レフィルのくぐもった声を聞き取れず、初めて歩く廊下を跳ねるようにして歩いていたシュリは首をひねって「なに?」と聞いた。
シュリは火傷で動けなかった当初に比べて見違えるほどに回復し、今では全身にあった包帯も左手を残して全て取っ払われている。額に少し痕は残ったが、自前の白髪に隠れるから問題はない。
レフィルは暫くぶつぶつ言った後、不思議そうにするシュリに気付き慌てて笑顔を作った。

「それを黙っていろだなんて……あっ、な、なんでもありませんよ!?おほほほほ〜」

見るからに不自然だ。
不自然極まりないが、シュリがそれを問う術は無い。むしろ踏み込んでは行けない場所ならば自重しなければ。なんせ自分は部外者だ。

「シュリ様……本当に何もないですから」

顔に出てしまっていたらしい。もう一度気遣わしげに言われては、ぎこちなくも頷くしかなかった。


部屋は円状になっていて、そのまた外を円状の壁に守られている塔だった。塔の天井は吹き抜けになっていて、遠くの方から陽光が顔を出している。風もほどよく入り込み、とても過ごしやすく、だが厳かな雰囲気が漂っている。

シュリは部屋に入った途端、その内装の素晴らしさに驚き、左右に視線を走らせながら、これから過ごす自室を探索し始めた。

シュリの背丈よりさらに高い大きな両開きの窓。今は開いているがそこに取りつけられた遮光の臙脂色のカーテン。品の良い石造りのチェスト、鏡台、衣装棚。そして、何より目立つのは、部屋の一角に設置された布の塊だ。それを覆い隠すように天井から半透明の布が下りてきている。天蓋(てんがい)、なのだろう。部屋に足りないのは寝台だけ。よって判断はつくが近寄ってみなければよくわからない。天蓋の分け目を手でそっと避けたシュリは、そこにあった光景に目を瞠った。

(竜の巣……)

カーテンと同じ臙脂を基調とした布が幾重にも積み重なり、お山のようになっている。半円の中心には、入り込めるような空間があり、シルク地の枕が置かれていた。
これが藁ならば、昔写真で見たことがある野生の竜の巣の様だと。



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