the lonely dragon | ナノ


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「で、でも……今は4年前と違って平和なはずでは…」

「………わからぬな。『4年前の大虐殺』までとはいかずとも、どこかで略奪が横行しているのが現状だ。竜が力の象徴である故にな。そのうちの一つか、あるいは……」

ソーマは難しい顔をすると、口を閉ざして遠くを見つめた。
4年前の大虐殺。通称“スターヘル”が起こったその年、たくさんの竜が死に絶え、仲間を失い路頭に迷った。帝国に対し一線を引いていたイーリス王国はその竜たちの援助に台頭した。特に当時のソーマは先頭に立って竜を保護し、そうしてその名は竜族に広まった。
あれほど悲惨な事件は後にも先にも無いだろう。

「せめてシュリ様とお話ができたら良いんですが」

「よもや記憶が無いわけではなかろうな」

「そ、それはないんじゃないですか…。実際のところはどうかわかりませんが……今まで触れてはいけないと思っていたのですが、次は時を見てご家族のことをお聞きしてみます」

「一旦そうしておいて…、我の都合が良い時にあの魔女のところに連れていくとするか……」

ソーマが溜め息交じりに吐露すると、まるでそれに合わせたかのように「カタン」と音がする。3mはあろうかという大きな窓から人影が侵入してきた。
日除けも何も被っていない黒い短髪の鷹の目を思わせる三白眼。レオンはレフィルを一瞥した後、ソーマの方へ無言のまま歩み寄ってきた。

「レフィル、また順次報告を」

驚いて固まっていたレフィルはそこで我に返り、慌てて背を向ける。
しかし「首尾は…」とソーマがレオンに話し出しても尚、その背中は遠ざかる様子が無い。
訝しげに眉を寄せたその時、

「あの!」

とまたレフィルは振り向いた。その表情があまりに必死で、ソーマは普段鋭い瞳を僅かに丸くした。

「お時間がある時でいいんです!シュリ様に…会いに行って差し上げていただけませんか?」

「………」

「シュリ様、私が殿下のお名前を出しただけで、とても嬉しそうに目を輝かせるんです。その時だけ少女…いえ少年の様になるシュリ様を見ていると、本当に胸が痛くて……」

初見の夜深い時分に訪れて以来、ソーマがあの部屋を訪れることは無い。今日もたまたま顔を会わせただけで、会うつもりなど無かった。どんな顔をすればいいかわからなかったのだ。案の定会ってみて戸惑いのあまり不自然に舌打ちなどしてしまった。

「気が向いたらな」

あれは自分のことが恐いのではないのか。だからこそ自分のことを怯えた目で見るのではないのか。


「……お願いします」


去り際、レフィルのか細い声に、ソーマは項垂れた額を押さえた。



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