the lonely dragon | ナノ


▼赤い炎を宿す石



「うわぁ……っ」

今までの生活では有り得ないほど安心した気持ちでお風呂タイムを終え、心身ともに癒されたシュリ。

「とてもお似合いです!」

今度はレフィルによって寝室の奥にある衣裳部屋に連れて行かれ、着せ替え人形に様変わりしていた。
レフィルは外出用にと5〜6メートルはある長い布をたくさん持ってきてシュリにあてがっては止め、あてがっては止めを繰り返し、ようやく見つけた布をシュリの骨張った細い身体に巻きつけていく。それはシュリのアクアブルーの瞳と似た、水色を基調とした布。するするとなめらかに滑る、その仕立ての良い布をじっくり見る間もなく、シュリは女性用の民族衣装である「サリー」を身につけて鏡の前に立たされていた。

「シュリ様は色がお白いので濃い水色がとてもお似合いです」

王宮の、とても腕の良い技師によって織られたに違いない。
身体の線を浮かび上がらせるサリーだったが、中性的なシュリの身体に初めてとは思えないほどよく馴染んだ。
自分でも驚くほど似合っているのではないかと鏡の中をしげしげと眺める。
シュリは、男ものを着ても女ものを着てもどことなくおかしい気がして、あまり着るものにこだわったことがない。今初めて胸の高鳴りを覚えてとても嬉しかった。

「そしてこれを被れば……っと、包帯も見えませんでしょう?」

レフィルがシュリの前に回って長いヴェールを被せる。ジャラジャラとシュリの鼻先で雫型の飾りが音をたてた。顔を上げているとあたってくるので俯き加減にまた自分が映っている鏡を見る。

「ここをこうして……」

長いヴェールの先についた指輪を両手の中指に通し、レフィルも鏡越しにシュリを見る。その途端「まぁ…」と小さく零すレフィルの前で、シュリは着なれないヴェールを両手で翻しながら覚束ない足取りでくるりと回ってみた。

「このサリーはシュリ様に着られる為に作られたようなものですね。本当にお美しいです…」

感慨深そうにレフィルが囁く。

「これからもっともっといろんなことに挑戦していきましょう。レフィルもお付き合いいたします」

その声があまりに優しいので、シュリはちくりと胸が苦しくなって、そっと自分の胸を押さえた。
レフィルは自分が災いの竜だと知らずに言っているのだ。と。

「シュリ様……?」

シュリの異変に気付いたレフィルが優しい手つきでヴェール越しに手を伸ばしてくる。それに甘んじて頭を垂れ、撫でられていたその時、急に力強く衣装室の扉が開いた。

「――レフィル!!」

その声は、もう長く聞いていない、気高く崇高な声だった。





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