the lonely dragon | ナノ


▼癒しのひと時




念入りに人払いがされた浴室に入ると、さっそくレフィルが腕をまくって支度を始めた。
シュリもゆっくりと身につけていた薄絹を解く。
初めて身体を拭く為にレフィルに裸になって全身を見せた時のこと、暫く固まった後「男、なんですね」と当然のことを言われて面食らったのを思い出す。以前より確かに痩せはしたが、他の女性に比べ背が高い上に女性的な丸みが無いのだから誤認するはずもないと思っていたシュリはとても衝撃を受けた。
火傷の痕を隠す包帯も同様に解くと、抜け殻のように落とされた着ていたものの上に落とす。外気に素肌が触れる感覚に敏感な背筋が震えた。日中のパライゾは外に出れば焼け焦げてしまうのではないかというほど気温が上るので震えたからと言って寒いわけではない。包帯も何も身に纏っていない状態がここ最近無かったらだ。人よりも動物に近い竜は人の姿をとっていても皮膚が感じ取る感覚は鋭い。
結っていた髪を背後に回ったレフィルが解くと、腰まで伸びた長い銀髪が肌を包み込むように広がった。生まれたままの状態になったシュリはレフィルに促されて湯船に浸かる。風呂に浮かんだ泡から顔が出る程度に肩まで沈んでいく。浸かる時も慣れない感覚に肌が細かく震えた。

「お湯加減は――」

聞かれる前にシュリは気持ち良さが身体から溢れ、痙攣の治まらない肌を擦りながらとろんとした瞳で頷いた。気をしっかり持たねば冷たいレンガ色の石に頬擦りをしてしまいそうになる。シュリは声が出れば鳴らしていたであろう、喉の奥にぐるぐると息を吸い込んで幸せそうな溜息を吐いた。

「シュリ様…それほど気持ちが良いんですね」

クスリと上品に笑ったレフィルは手に持った櫛を湯の中に浮かんだシュリの髪に通していく。シュリはそれをリラックスして受け入れながら泡を玩び、肌に擦り込んだりと身体の汚れを落とした。

それは、心を包み込んでいた暗い気持ちも一緒に洗い落ちたかのような、くつろぎの時間だった。




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