the lonely dragon | ナノ


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*〜**〜*


シュリが1人で歩行できるようになったのは、その3日後だった。

「うわー!すごいですシュリ様!」

まるで赤ん坊の初歩行のように手を叩いて喜ぶレフィルに対して、シュリは少し呆れながらも照れくさく微笑んだ。甲斐甲斐しく世話をしてくれたレフィルの方が、ひょっとしたら嬉しいのかもしれない。
始めに宛がわれた部屋は、相変わらず2人だけの空間だった。

「お祝いに何かしましょう?何が良いです?あ、そうだ!街に行ってみませんか?」

街……人混み…
シュリは逡巡の後に頷いた。

「シュリ様、大丈夫ですよ。お召し物はこちらでご用意しますから何もご心配なさいませんよう。…これから大浴場に湯浴みに参りましょうか。今の時間なら部屋の外に人も少ないでしょうし」

レフィルはシュリの考えたことをだいたいは悟ってくれる。
今までの経験上、レフィル以外となると、こうも楽に意思の疎通がいくとは思えなかった。

シュリは一刻も早く身体を洗いたくて二度頷いた。この一週間というもの、傷に障らないように濡れた布で汗を拭われたくらいだ。元々普段から風呂に好んで入りはしなかったが、さすがにここまでご無沙汰だと湯が恋しくなる。
そうと決まれば待ち遠しくて、そわそわ。すぐにベッドから立ち上がった。

「誰にも見つからないように行きましょうね」

シュリの存在は、秘密なんだそうだ。王子の寵愛(?)いや庇護を受ける対象がいるというのを公にすると王子自身の分が悪くなるらしい。それが分からないシュリではなかった。一応、国などという大きな母体ではなかったが、シュリも一族の長の家系だ。王族のあれやこれやは心得ていたので理解は早かった。公務で飛び回っているということを知れば、なんと真面目で実直な王子なのだろうと思う。会えない時間と考える時間が重なり、シュリが考える「ソーマ王子」という存在が抽象的にもできあがってきていた。

「そろそろこの客人専用の部屋から移るといいかもしれませんね。離れの塔などどうでしょう。あそこは召使いもろくに入りませんのでシュリ様もお気軽に歩けると思うんです」

外に向かいながら振り向いて浮つきながら話しかけてくるレフィルに、シュリは目を細めると頷く。
こうして歩けるようになったのも、明るい気分でいれるのも、この笑顔が傍で励ましてくれていたからこそだと思うと、胸に温かいものが広がって、微笑まずにはいられない。口では言えない分、表情に出てしまうのは仕方なかった。

「さて……まずはお風呂ですね」

微笑んだと同時に前へと向き直ったレフィルの耳が真っ赤だったことに、シュリはそっと音の無い笑みを零した。



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