the lonely dragon | ナノ


▼束の間の休息




1年中熱い気候に見舞われるイーリス王国。この国の西の果てに位置するパライゾは、国王の直系である第一王子が取り仕切っている。彼の名はソーマ・ラゴーネ・ラヴァリス。弱冠14の時にこの地位に担ぎ上げられ、以後その名を広めながら、着実に地盤を固めていった。若き獅子王は、竜を対等に扱う様からまたの名を竜愛の獅子王と呼ばれ、竜族からもパライゾの民からも愛されている。



灼熱の太陽が照りつける中、城の中庭では、噴水の脇に無防備にもその獅子王様が転がっていた。布を敷いた上で睫の長い瞼を閉じて、日差しを遮るココヤシの葉に守られている。

傍らには帯刀したレオンが口を一文字に結び無表情のまま腕を組んでいた。レオンは口数が普段から極端に少ないが、命ぜられれば何でもするし、剣の腕も申し分ない。完璧な側近だ。しかし、周囲からの視線は冷ややかなものだった。何を考えているのかわからない、どこの誰で、どういう生い立ちなのかもわからない。いつの間にか王子の傍らに現れ、まるで何年も連れ添ったかのように堂々とする振る舞いに、周囲は戸惑うしかなかった。



そして正直なところ、この王子殿下というのがまた変人で通っているのだから手のつけようがない。竜と人との間を埋めることに理解を持つ新しい考え方の主君として広く知られているが、その実世間的には褒められる王子でも、誰も深く関わろうとはしない。



そんな彼の頭を占めているのは、先日ふらりと拾ってしまった1頭の竜、もとい1人の美しい青年である。彼は拾った当初から口がきけず、それは随分前かららしかった。ファーラントの熱で喉を焦がしてしまっており、額や腕にも陽光による火傷が残る。雪など見たことがないソーマだったが、雪の様に白い肌とはこのことなのだろうかと人知れず思う。そして瞳は清廉な水をやどしたかのような白がかったブルー。アクアブルーだった。穢れを知らない純粋な眼差しでこちらを見ていた。その奥にある深い悲しみと全てを悟ったような落ち着きが、ソーマの胸で不規則に脈打っている。



最初は助けたい一心だった。竜ではなく人だと思っていたから。不思議なほど美しいこの青年を死なせてはならないと全身が訴えていた。ところが竜だとわかり、途端にどうしたらいいのか分からなくなってしまった。家臣や青年には「人型をとれる竜が欲しかった」などと言ってはみたが、それはなにもこのようなイレギュラーな入手の仕方でなくとも良かったのだ。本心からの一言だったが、ソーマにとっては強がりにしかならない。

誰かが言うように、他国のスパイだったらどうする。夜寝ている隙に首をやられて殺されるかもしれない。はたまた竜の姿で頭から食われるか。



「……なるほど、捨て猫を拾うなとはこういうことか」



少し、と言うか格段にずれている呟きを訂正する者はおらず、ただレオンがいつもの鋭い眼差しで聞いている。そして片腕を枕にしたソーマは寝がえりを打つと、思考と視界を遮断した。




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