the lonely dragon | ナノ


▼2




頭の中では同じ光景が繰り返し流れている。緊張と、焦りと、失敗に対する恐れ。

その流れを断ち切るように、彼に声をかけてくる人間がいた。



「おや、大きい竜のにいちゃん、最近よく見るねえ。出稼ぎに来てんのかい?」



見れば屋台の1つの女将のようで、割烹着を身に付けたふくよかな女性だった。

まんじゅうを両頬につけているかのような触り心地が良さそうな頬を持ち上げて、快活に笑う女将に竜は心が浮上するのを感じ、人の流れの中、立ち止まった。



「んー、まぁそんなとこかな。俺ってそんな目立つ?」



きりりと凛々しい顔を和ませて首を傾げる。



「目立つねえ。パライゾにゃ竜なんて大勢いるけんど、背が高いのが急にこう何日も行ったり来たりしてちゃー」



中華料理屋のようで、にくまんか点心でも売っているのか、もうもうと湯気が立ち上る蒸篭(せいろ)を慣れた手つきで取り扱いながら、女将は竜との会話を続ける。



店先から覗いてみる限り小汚い内装だったが、屋台に取り付けられた簡易のカウンターには客が満員状態だ。竜は蹴躓いてしまわないように再三注意を払った。



「なんかその言い方不審者っぽいな…。出稼ぎじゃなくて、職探しが正解。もっと言うと、この前受けた面接の結果待ちってとこなんだけど」



ため息交じりに片眼を閉じると、小首を傾げておどけてみせる。本当は気楽に話せる話題ではないが、やはり気持ち的には誰かに話して楽になりたい。

女将は微笑みを絶やさずに話を聞きながら、竜の腰に刺さった得物を見て問い掛けてきた。



「面接……傭兵か何かかい?まぁそう気を落としなさんな。案外すんなり受かるもんさね」



「あはは……面接受けたのが半年前で音沙汰なしでも?」



「……いよっしゃ!おばちゃんがにくまん奢ったげるから元気だしな!」



さすがの彼女も励ましきれなかったらしい。



「え!ほんと?にくまん!?ありがとうおばちゃん!」



「あたしゃまだおばちゃんじゃないよ!そらもってきな」



え、いま自分でおばちゃんって……と思った竜は輝かせていた表情を一瞬固めたが、すぐにまた笑顔になって袋いっぱいに詰まったにくまんを受けとるとその場を後にした。



「おばちゃん!絶対出世払いするから!」



性懲りもなくそんなことを言いながら。




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