the lonely dragon | ナノ


▼竜であるということ


竜の瞳には意味がある。
左の目をよく見ると、瞳の中に2つの星(斑点)がある。
または1つの星がある。

星が1つしかない竜は、もう1つの星を自らで取り出したということ。

竜は内分される部族同士で固有の子孫を残す為、とても秘密主義である。敵であれ同じ竜族同士であれ、弱点を知られぬよう、多くは語らない。自分がどこの部族であるのかすら口を閉ざす。故に死する時も身体は長時間をかけてではなく、すぐにエネルギーへと返還されて大地へと還る。
瞳の中の星が潰えても、外にある星は消えない。これは死して亡き骸が残らない竜のある種形見となる。

ではなぜ星を取り出す必要があるのか。もちろん星を2つ持ったままで死ぬことも可能だ。
これは言い伝えでしかないが、竜が星を渡すのは、生涯仕える主のみだという。
自分が亡きものとなっても尚、主を守れるよう、主に忘れられぬよう、主を心の底から慕っている情の現われとして手渡すのだ。
そして星が1つしかないということは、竜にとってとても誇らしいことなのである。

高潔で理性のある竜は人よりも遥かに長い時を生き、その一生の中で最愛の主人を見つける。自分が主人の楯であり剣であり、あるいは……最良のパートナーであることを望んで。


そして、ここにもそんな竜が1人。


「はぁぁぁ………」

屋台が立ち並び、人でごった返した商店街。
盛大に肩を落とし、屋台が立ち並ぶ通りを歩いている。
彼は人混みの中でも頭一つ抜きん出て高く、身体の線は細いが、細かく隆起した筋肉は身体をより大きく見せ、見るからに強そうな体格。そのはずなのに、相当落ち込んでいるのか人の間で項垂れて、見えなくなってしまっている。
ダークグリーンの硬そうな髪を前髪から全て後ろへ流した髪型で、俯いていても髪が乱れることがない。瞳の色は髪の色と全く同じ。
彼は竜族の中でも優秀な戦士に上げられる部族の一員だった。だがしかし、他の同族に比べて頭が良く回り、心優しいという異質な存在だったために次第に周囲から疎外され、ついには里を出ることになってしまった。
追い出されたのではない。
そう彼は考えるようにしている。里のみんなにとって自分が異形(いぎょう)の存在だったのだから、疎遠になって当然。何しろ自分には里を出たことで目標が生まれた。その目標に出会うために里を出たのだと。

彼は肩を落としながらも、なんとか歩きながらひとりごちた。

「なんであんなことしか言えないかな…」



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