感動的とは言い難い再会
「なあ知ってるか?藤木、穂村。昨日来た転校生、早速デュエル部に入ってくるらしい……って、聞けよ藤木!」
とある日の放課後
自称情報通な島くんが意気揚々と部室内で僕達に声を掛けているのだけれど、遊作は興味がないのか彼を一瞥する事なく窓辺を見つめていて
相変わらずなその様子につい苦笑を浮かべてしまう
「転校生かあ。僕はまだ見た事がないんだよね、どんな子だろう。」
「フフン、知らないのか穂村。ならば教えてやろう。転校生は1年の女子生徒で…」
「あ、それくらいは知ってるから。」
ピシャリと告げたのが効いたのか膝から崩れ落ちる島くんに結構打たれ弱いんだな、なんて思っていた所部室に入ってきた部長から改めて新入部員がいる事を伝えられ
既に扉の外にいる事も教えられる
「…という訳で入ってきてくれるかな、みょうじさん。」
「はい。」
「……ん?」
扉の外から了承の言葉が聞こえてきたものの、何処となくその声に聞き覚えがあるような気がしてくる
「初めまして。昨日転校してきたみょうじなまえで……」
そしてその女子生徒の姿が見えた瞬間自分でも驚く程勢いよく、そして俊敏に女子生徒の腕を掴み部室を後にする
最初は何が何だかわからない表情をしていた彼女も僕の顔を見た瞬間、鼓膜が破れる程の大声を上げながら此方を指差してきた
「あー!!アンタもしかして、東高の『烈火の鬼神』穂村尊!?」
「此処でその呼び方はすんなって!そっちこそ西高の『暴れ馬』みょうじなまえだろ?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ!コッチでは隠してるんだから、アタシの事そう呼ばないでよね!」
先程までの大人しさは何処へやら、荒々しい口調でみょうじは不機嫌さを隠そうともせず此方を一瞥してくる
この西高の暴れ馬との異名を持つみょうじは僕…いや、俺が港町の高校に在籍していた時に何度か遭遇した事がある人物だ
当時の俺は学校にもまともに通わず喧嘩に明け暮れていたのだが、多勢に無勢なんて事はよくある事で
ある時一人対多数なんて卑怯だなんだと言いながら飛び膝蹴りをかまし加勢してきたのが俺とみょうじの初めての出会いだった(その後ポニーテールを靡かせ勇ましく戦う姿から暴れ馬との異名を持っているのを知る事になる)
「まさか転校した先でアタシの過去を知ってる奴に会うなんて…予想外だわ。」
「俺だって予想外だったっつーの。…てかみょうじ、お前よく理不尽だったり卑怯な事に率先して立ち向かってたけどよ、まさか此処でも……」
「してる訳ないでしょ!朝のラッシュ時に痴漢してるサラリーマンを見つけたから蹴り飛ばして踏みつけて、駅員に引き渡しただけだし!」
「おま、そういう所だぞ!?」
「みょうじくん、穂村くん。もしかして…君達は知り合いだったのかい?」
廊下でやいやい言っている俺達の声が聞こえていたのか、部長や他の部員達が扉の隙間から顔を覗かせてくるのが見える
「え!?あー…そ、そうなんですよ。顔見知り程度なんですけど……ね、ねえみょうじさん?」
「は、はい!穂村くんとは前の町で会った事があって……」
ニコニコと愛想の良い笑顔を互いに浮かべつつも、視線は雄弁に語る
『余計な事を言うなよ。』
『アンタこそ。』
視線から伝わる心の声がまるで判を押したように同じだった事が何だか面白おかしくて笑いそうになったものの
それを察したみょうじによって俺の左足は勢いよく踏みつけられたのだった
感動的とは言い難い再会
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二つ名はダサい方が丁度いいかなと思いました。