これは予行演習だから


竜持は新商品を好む。とくに飲み物は出ればすぐ買うくらいだ。それにおまけして、その商品の感想を共有したがる。まるで女子だと俺は竜持に言ったが竜持は「失礼ですね」。と笑いながら返事をよこすだけだった。
練習後、竜持がコンビニに寄りたいと言ったのでコンビニに寄ることになった。虎太はもう少し練習して帰る、とのことだったので俺と竜持の2人だ。竜持はコンビニに入ると例のごとく新商品を物色に向かった。俺はと言うと、なにか食べたいという訳ではなかったし、特別に喉が渇いていたわけでもなかったので竜持が買い物を終えるまで雑誌コーナーにいた。
週刊の漫画雑誌をなんとなく広げていると「凰壮くん、終わりましたよ」。と竜持が小さめのレジ袋を右手にぶら下げて寄ってきた。
店を出ると竜持は早速飲み物を取り出した。

「今日はそれだけか?」
「これとチョコです」

甘いものが苦手と言う割にこうやって買ってくるのだから不思議だ。
竜持はペットボトルの蓋を開けると一口飲んだ。炭酸らしくシュワシュワと音が微かに聞こえた。

「凰壮くんも飲んでみてください」

きた。そう思うしかなかった。
何時も竜持、虎太、俺の順で飲んでいるのでなんだか新鮮な気分だったが虎太がいないだけでいつもと変わりないことにため息がでそうになった。
俺が受け取らないでいると「凰壮くん」とまた名を呼ばれた。しぶしぶ受け取ると竜持は満足気に目を細めた。俺も一口飲んでみるとふわりとリンゴの味が口内に広がった。

「どうですか?」
「おいしいと思う」
「そうじゃありません」
「は?」

竜持の方の視線ごと顔を向けると竜持はニヤリと笑って「僕との間接キスのことです」。と言った。
ポカンと音がするような感じでポカンとした。意味が分からないだろうがとにかく驚いたのだ。そんな俺の手元からペットボトルを奪うと竜持はゴクゴクと半分くらいまで一気に飲んだ。炭酸なのによく一気に飲めるな。竜持はフーッと息を吐き「ああ、リンゴ味ですね」。と笑った。

「凰壮くんとの初間接キスの味はリンゴ味ですね」

もう一度ニヤリと笑って言った。いつもは虎太くんが間にいますから。だとか、今度は凰壮くんに最初に回しましょうか。だとか言ってる竜持を眺め、顔を赤くすることしかできない自分が気に入らない。俺たちは男で兄弟なのだ。こんなに狼狽える必要はないはずだ。なのに竜持の顔も見れないほどテンパってしまっている。
沸々と湧き上がる感情の名前が分からない俺に竜持は「次は直接しましょうね」と囁いた。

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