今は穏やかな夢を


だいぶ日が沈むのも早くなり夕焼けが夜空に変わる頃、普段より遅く帰宅した。なぜ普段より遅いかというと、図書室でゆっくり数式を解こうとテキストを開き暫くの後、あろうことか竜持は寝てしまったのである。ハッと目を覚ました時には図書室が閉まるギリギリの時間でその場には竜持と委員の人がいただけだった。しまった。そう思ったが既に遅い。
今日は両親もいないため竜持が食事当番だった。両親がいないことが多い降矢家では家事を兄弟で輪番してやっている。急ぎながら荷物を置きに自室へ入り電気をつけると竜持のベッドで凰壮が寝ていることに気がついた。制服ではなくラフな格好をしており髪がしっとりと濡れていることからシャワーを浴びてそのまま寝てしまったのだと簡単に推測できた。しかしここは竜持の部屋である。凰壮の部屋は隣だ。臭いよりはましだが濡れた髪で人のベッドで寝ないでほしい。

「凰壮くん、起きて下さい」

体を揺するも眉間に少し皺を寄せただけで起きはしなかった。それでも何度か揺すっているとゆっくり瞼が開いた。まだ微睡みの中にいるのかぼんやりとした目で竜持をみた。

「凰壮くん、寝るなら自分のベッドで寝てくださいよ」

凰壮は唸ると竜持の手首を掴んで引いた。凰壮の力は弱かったが竜持がベッドの方に体を少し被せていたため竜持の体は簡単に倒れ込んだ。

「ちょっと!凰壮くん!」

起き上がろうとすると「うるせぇ…寝るんだよ…」。と言った。言葉は少なかったが竜持は言いたいことが分かった。凰壮は一緒に寝ようと言っているのだ。離してくれなさそうな手首を見て仕方がないと凰壮のとなりに寝転んでみる。

「凰壮くん、ご飯は?」
「あとで…」

そう言って凰壮は目を閉じるとすぐに寝息をたてた。竜持がもぞもぞと動いても頬に触れても起きはしなかった。きっと今日もたくさん練習したのだろう、と竜持は思った。柔道を初めてほんの半年。運動神経もよく要領もいい凰壮は数日で柔道をそこそこの相手なら簡単に勝つまでになっていた。とは言っても最近は身体の成長に脳がついっていってないらしく壁にぶつかっていた。それが悔しいのか熱心に練習している。そのため帰ってくると凰壮はだいたいシャワーを浴びて寝るのが日課になっていた。
竜持は凰壮が起きないのを確認すると凰壮の胸に顔を埋めた。スン、と鼻で息を吸うと石鹸の匂いがした。竜持も使っている石鹸の匂いの筈なのになんだか匂いが違う。ああ、凰壮くんの匂いだ。と竜持は思う。いつも汗臭いと文句言ってはいるがどんな匂いでも凰壮の匂いは好きなのだ。
竜持はチラリと凰壮を見上げた。瞼は閉じられている。もぞもぞっと竜持は凰壮と同じ目線のところまできた。柔道をしているときの精悍な彼は形を潜めている。彼は熟睡しているしバレはしないだろう。そう考え凰壮の唇に一つキスをした。
竜持はまたもぞもぞと元いた位置に戻り瞳を閉じる。すると凰壮が竜持を引き寄せた。これが無意識なのかどうかは後で考えようと竜持は微睡みの中で思いゆっくり意識を手放した。


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