それが足りぬというのなら


未来から来た。そう言ったあなたは私の未来を知っているのですか?

サッカーを守りたい。そのためには私の力が必要だと言った彼らに神のお告げを聞いたことを話すと鮮やかな桃色をもつ彼は驚きと戸惑いの目で私を見、顔を伏せた。やはり信じてもらえなかったんだろう。出会ってすぐの彼に言ったところで信じてもらえるはずがないと頭では分かっていたのに責めるようなことを言ってしまった自分が情けない。力を貸してくれる兵たちでさえ疑いの目で見る者は少なくないというのに。
じわり、視界が歪んだ。ああ、情けない。こんなことで泣いていてはオルレアンを解放することすら夢のまた夢ではないか。弱い自分が悔しい。ひとつ涙が落ちそうになったとき彼らは静かにそばから離れていった。気を使ってくれたのだろうか。いらぬ心配なのに、一人になると一層自分がちっぽけに感じた。

「ジャンヌ」

彼が戻ってきたのはすぐだった。
彼は私の隣に座ると静かに言った。「ジャンヌは強いな」。と。

「…強くなんてありません」

そう、強くなんてないのだ。こんな泣き虫で、意気地なしで、誰の信用も得られていないような人間。
あなたの方が私よりずっと強そうに見える。そう伝えると彼は「そんなことない、絶対に」と少しだけ震えの混じった声で言った。顔を上げ、彼をみると悔しそうに、そして悲しそうに顔を幾らか歪め地面を見つめていた。

「いつも追いかけていたんだ…」

彼はポツリポツリと話し出した。
いつも追いかけていた背中があるのだと。その背中にいつもはどうにか並ぶことができていたが今はそれが叶わなくなりそれが悔しくてもどかしい、嫉妬してしまった。それなのに相手は「一緒にきてくれて嬉しいと」言ったのだと。実際は並べていないのに。そう言ってくれる優しい彼に醜い思いを抱いてしまったと。そう話した。

「俺の力は所詮ちっぽけなものだったんだって気付いたよ」

彼は困ったように笑った。
きっとその相手とは先ほどともに来た彼のことだろう。大切な友人なのだろうか、とても親密な関係に見えた。だからこんなにも悔やんで悩んでいるのだろう。

「力がないと共に入れないのですか?」

返事はなかったが彼の青い瞳が動いた。

「私にはとてもそうは思えません」
「ジャンヌ…」
「その方があなたを必要としてくれています。そしてあなたも彼を必要としています。それで十分ではないですか?」
「でも、それでは一緒に戦えない…」
「あなたがいることでその方が安心して戦えるのなら…それがあなたの力ではないのですか?」

力か…。そう呟くと彼はまた困った顔で笑った。しかし先ほどと違いその表情は幾分か晴れているようにも見えた。
これ以上は私にも分からない、話を変えよう。と話題を探すも一向にいい話題が見つからない。ふと彼らと出会った時のことを思い出した。

「そういえば、未来から来たといってましたよね?」
「え、ああ、そうだな」
「私は国を救えているのでしょうか…」

そう聞くと彼は視線を右上に投げてうーん。と唸った。
その仕草が髪にあたる光もあってかとても綺麗でドキリとしたがこれは気のせいかもしれない。

「…救えるかどうかは言えないが、ジャンヌは強くなる」
「私が強く?」
「ああ、強くなる」

彼は一瞬視線を彷徨わせた後、自信満々とでもいうように笑い頷いた。
なぜか彼の言葉は信じることができた。こんな私でも兵を率いて戦えるようになるのだと。オルレアンを解放できるのだと。この国を救えることができるのだと。

「ジャンヌは今でも強いからな」

彼の呟きはよく聞き取れなかったがふんわりと笑った彼にまたドキリとしたのは気のせいではなかった。


この時の私は後に異端者として火刑に処されることを想像することすらできなかった。しかし彼はきっと知っていたのだ。私が宮中で孤立することも異端者として捕えられ女性としても信者としても酷く屈辱的な運命に晒されることを。
神様、もし彼が言った通りに強くなっていなかったせいなのだとしたらどうかもう一度チャンスをください。彼に強くなった私を見せたいのです。どうか彼の生きる世界に行かせてください。

強くなる。そう言ったあなたのいる未来で私は生を受けることができたでしょうか?


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