a live
雨が降る日。時々、自分がなぜこの世に存在するか分らなくなる時がある。そのたびに先輩に意味を問うもただ先輩は頬笑み俺を抱きしめるだけだった。別に答えが欲しいわけではないがただなにも言ってくれないのが不安だった。心の中では鬱陶しく思っているのではないかとさえ思う。それでも俺は問いを繰り返した。寂しかったのかもしれない。雨を見るたびにあの日のことをどこかでなんとなく思い出していたのかもしれない。やめられなかった。
「先輩」
名前を呼べば「なんだ?」。と振り向いてくれる先輩。どうしようもなく愛おしかったが情緒不安定というのだろうか。先輩の顔をみると泣きだしたくなる日がここ最近続いていた。悲しいのか嬉しいのかも自分では分らなかった。先輩の手を掴んで引っ張る。先輩の手はいつもと同じように冷たかった。
「狩屋の手はいつもあったかいな」
先輩は笑ってそう言った。
「まだまだ子供体温だな」
先輩に子供といわれるとどうしようもなく不安になる。先輩はどちらかといえば大人っぽい。たった一つの歳の差なのに自分よりも大分年上のように感じてしまう。子供な自分では先輩の恋人なんて役不足なのではないか。そう思うようにもなった。
「先輩、先輩はどこにもいかないですよね?」
自分はずるい。こういう問い方をすれば先輩は絶対に否定しないと分っているのに。
「大丈夫、ずっと傍にいる」
ほら、やっぱり。
「先輩、俺のこと好きですか?」
「好きだよ」
「ねぇ、先輩、俺はどうしてここにいるのか分らないんです」
なんで呼吸してるか分らないんです。なんで生きてるか分らないんです。こんな奴必要ないはずなのに。
そうボロボロと言葉が口から零れた。同時に目から涙も零れ落ちた。
「どうして、先輩は俺と一緒にいるんですか?」
先輩から見た俺はきっとおかしな奴だ。
「どうして、なにもいってくれないんです?」
先輩が困っているのに止まらない。いつもこんなこと言わないのに。
「うざったいなら言ってくださいよ!お前なんか嫌いだって言ってくださいよ!」
ごめんなさい、ごめんなさい。と俺は心の中でひたすら謝り続けた。
「狩屋」
「嫌です!聞きたくないです!!」
自分でなにか言えと言ったくせに俺は身勝手だ。俺は溜まらず泣き出してしまった。
「狩屋、俺は狩屋のことうざったいと思っていない。嫌いだなんて思うはずがない」
繋いだ先輩の手がじんわりと熱を帯びてきた。
「俺が狩屋といるのは狩屋のそばにいたいと思うからだ。狩屋が大切だからだ」
徐々に鼻声になる先輩。先輩は俺を抱きしめた。
「狩屋は生きてるのが嫌か?」
「…分らないです」
「狩屋、俺はお前が生まれてくれて嬉しいよ。狩屋が生きていることが嬉しい。」
「…」
「俺も生きてる意味なんて分らない。でも俺はお前と出会うために生まれてきたんだと思う」
「せんぱ…い」
「生きてる意味を一緒に探そう、狩屋」
嗚咽混じり先輩はそっと呟くように言った。上を向けば先輩の頬はいくつもの涙が伝った跡が残っていて未だ跡が作らていた。
「先輩、俺、生きてる意味なんていらないです」
なんだか急に不安がっていた自分が馬鹿らしく感じた。
「先輩がいてくれればいいです。ずっと傍にいてくださいね?」
先輩は笑って頷いて、更に俺を強く抱きしめた。
また困らせてしまうかもしない。傷つけてしまうかもしれない。それでもこんな俺に受け止めてくれた先輩と一緒に精一杯生きようと思った。