もし君が涙を流すなら
「ひくっ、まーくぅっ」
「泣くなよふぃでぃお!」
昔は泣き虫だった俺。そんな俺に呆れることなくそばにいてくれた彼。そんな昔の光景を夢でみた朝のことだ。
なぜか朝早く目が覚めた。あまりにも早い時間のためか鳥のさえずりさえ聞こえずシンとしていた。二度寝をしようかと思ったが次にちゃんと起きれるか不安になり止めた。からりとカーテンを開ければ僅かに光が入る。どうやら太陽はまだでていないらしい。外をながめていたら外に出たくなってきたので着替え、静かに外にでた。
街中を歩き海辺までくるとそこで彼をみつけた。彼はただジッと水平線を眺めていた。その姿はどこか儚く今にも消えてしまいそうだった。
「マーク」
声をかければピクリと震える肩。そろそろと此方に顔だけ向けて泣き出しそうな表情をして「どうしよう」と震える声で言った。
「俺、カズヤのこと」
そう言って彼―マークは涙を流した。
「キャプテンなのに、気づかなかった」
俺はただ静かに泣くマークを抱きしめた。強く抱きしめるとわっと泣き出した。マークのこんな姿は初めてみた。思えばいつも泣いていたのは俺の方でこうやって抱きしめてくれていたのはマークの方だった。やがて泣き声も小さくなり少し落ち着いたマークは「おかしな」と言ってまだ潤む瞳を細めて笑った。
「昔は俺が抱きしめる側だったのに」
そう言って強く握りしめていた手を背中にまわし肩口に耳をあてギュッと俺に抱きついた。
「ありがとうフィディオ」
「俺は別に...」
「いや、そばにいてくれた。それだけで充分だ」
顔をあげ泣いているのか笑っているのか分からない表情でマークは再び「ありがとう」と言った。
もしまたマークにつらいことや悲しいことがあったら何度でも抱きしめてあげよう。
そう誓って朝日の柔らかな光の中でマークにキスをした。