涙を拭う



「じゃあ今日はここまで」

先生の声と共に授業終了のチャイムが響きわたる。このあとは直ぐにチームの練習があるためさっさと片付けて席をたつ。

「ねぇ、フィディオくん」

時間ある?、と名も知らぬ女の子が声をかけてきた。面倒くさいなと思いながらも笑顔で「少しなら大丈夫だよ」と答えてしまう勝手な口。「じゃあ屋上に来て」と真っ赤な顔で言う女子に対して普通なら可愛いとでも思うだろうが何とも思わない、寧ろ鬱陶しいとさえ思う。なのに笑顔を湛え続ける表情。慣れとは恐ろしいものだ。女子が走り去ったあとチームメイトに練習に遅れるかもしれないとメールを送り急いで屋上へ行く。それから彼の存在に気づくまでの時間は一瞬だった。一時を覗いて。

屋上に行った俺にありふれた告白をする女子。それを内心苛々しながらも申し訳なさそうに断る俺。そこまではいつもどおりだった。その後「付き合えないなら」とキスされてしまったのだ。そしてそれを彼に見られた。

「なんでキスなんかされてるのフィディオ」

普段と変わらない少し低めなテノールの声。でもそれが今はとてつもなく怖い。俺が何時までも答えないでいると俺の後ろにある壁にバンッと手を力任せにつきキッと目尻を釣り上げた。柄にもなくぼろぼろと涙が溢れだす。「ごめんなさい」、そう何度も言った。どれくらい時間が経っただろうか彼はため息をつくと壁から手を離し俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「俺も悪かったから泣くなよ」

そう言って指で涙を拭って瞼にキスをしてくれた。それでも止まらない涙を何度も何度も拭ってくれた。そんな彼の表情はちょっと困ったような呆れたようなそれでも幸せそうな笑顔だった。






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