「あ、あれ…?」
勢い良く両開きの窓を開けたわたしは、ベランダに誰もいないことに拍子抜けしていた。扉をよく見ても、何かが張り付いているわけでもない。
…ということは、まさか…幽霊…?!
「まさか…リアル森の洋館…」
「そんなわけないでしょう」
「ひ…っ!?」
「おっと、静かにして下さい」
口を手で塞がれてしまい、叫ぼうとしたけれど声が出なかった。恐怖で固まるわたしの耳元で囁き声が聞こえる。
「貴女に危害を加えるつもりはありません。その窓を閉めていただけると助かるんですが」
死角に立たれているから姿はわからないけれど、声からして相手は男だ。逆らったら何をされるかわからない。
取り敢えず、言われた通りに鍵までかけて窓を閉める。内心はもう怖くて泣きそうだった。
そんなわたしの気持ちを察してかわからないけれど、口を塞いでいた手が離れ、くるりと体の向きを変えられた。
「…っ?!」
「…すみません、泣かせるつもりはなかったんですが」
「えっ…?」
その言葉と頬に添えられた手で、わたしはようやく自分が実際に涙を浮かべていたことに気がついた。慌てるわたしをよそに、わたしの目元を拭ってくれる男の人の手付きは凄く優しくって、逆にこっちが戸惑ってしまう。というか、なんだか無性に恥ずかしかった。
(もしかして、この人、思ってたよりも優しい人なのかも…?)
そう思うと少し気分が落ち着いてきたわたしは、小さくお礼を言うと彼の手をやんわりどかす。そうして、先程から気になっていることを訊いてみることにした。
「え、えっと…あ、貴方は…?」
わたしの問いに、彼は少しだけ考え込む。けれど、少しして何故か「良い考えが浮かんだ!」と言いたげな笑みを浮かべた。…なんだか、嫌な予感がするぞ。
ま、まさか、強盗とか…?!
「…怪盗、と言ったら?」
「ごめんなさい金目のものならいくらでも持っていいから殺すのだけは勘弁してくだ!……え?」
てっきり強盗だと思ったわたしだったけれど、どうやら違ったらしい。
「怪盗?強盗じゃなくって?」
「違いますよ。あんな人達と一緒にしないでください」
念のため確認すると、男の人は露骨に嫌そうな顔で否定した。そんなに勘違いされるのが嫌だったのかな…。
「でも、そんな怪盗さんが、どうしてここに…?」
「…そのことなんですが、貴女に一つお願いがあるんです」
わたしの問いに、また男の人、もとい怪盗さんがさっきのように笑う。
と思ったら、わたしの両肩に手を置いて、顔を覗き込んできた。近い!近いって!
戸惑うわたしをよそに、怪盗さんは不意に真剣な目になってこう言った。
「私を…コーンを匿ってもらいたいのです」
それは非日常への入口