(チャンピオン制覇後で告白話)


「う、嘘でしょ…?」
「いや、ホント」

そう言って、ユウキはにこりと笑った。因みにその笑顔は珍しく満面且つ開けっぴろげで、直視したこっちの方が何故か無性に恥ずかしくなって思わず目を逸らす。
しかしそれに目ざとく気づいたユウキはゆっくりと近寄ってくると、あろうことか私の顔を覗き込んできた。

「カナ先輩、どうしかした?」
「い、いや何もー…」
「…こっち向いてよ、カナタ」

耳元で低く囁かれ、びくりと肩が跳ねた。視線を前に戻せば思っていたよりもユウキの顔が近くにあって思わず後退る。

こんなユウキ、知らない。私が知ってるユウキはちょっと生意気で、でもポケモンが関係することには凄く素直に真摯に向き合う子だ。バトルセンスもあって将来有望で、何より優しい。困ってる人を見るとなんだかんだ言いながら助けてあげる、そんな良い子だ。
こんな、「男」の顔をしたユウキなんて、知らない。

尚もじりじりと後退れば、背中に固い感覚。…まずい、壁際だ。

「もう、逃げるなよ」
「に、逃げる?なんのこと…」
「嘘吐き」

そういうユウキの目はとても切なそうで、なんだか泣きそうにも見えた。でも、その奥にちらちらと見える「炎」が私には恐ろしく思えて。
今までは見過ごせる位小さかった恋慕という名の炎は今、ユウキの奥で静かに、けれど激しく燃えているのがはっきりとわかるまでになってしまった。これ以上は、私も見てみぬふりはできない。

「アンタは逃げてるよ、カナタ」
「そ、んなこと…」
「じゃあちゃんとこっち向いて。ダイゴさんを盾にするのは止めて。…ちゃんと俺を見て」

ゆっくりと、顔の脇に手が置かれた。…もう駄目だ。完全に逃げられない。
壁に片手を肘までつけて、ユウキはこっちを見てくる。

「ダイゴさんは倒した。正々堂々と、バトルで。ダイゴさんは俺を認めてくれたよ。…もう逃げ場はないぜ」

もう片方の手が私の鎖骨に触れる。そしてそのままわざとらしく頬まで手で撫で上げてきた。私の表情を見て楽しんでるらしく、その口元は僅かに吊り上がっている。肩が跳ねるのが悔しい。

「はい、こっち向いて。答えて」

優しげだけど有無を言わさない言葉。
やばい、このままだと完全にユウキのペースに持ってかれる。年上として、そこら辺の威厳だけは保たないと。
そう思った私は何か言ってやろうと思って、顔を上げたんだけど。

「………っ」

もうダメだ。完全に選択ミスった。
さっき、あれだけ顔を背けたにも関わらず彼を直視してしまった私は、自分の脳が真っ白になる感覚に陥っていた。思考が完全にダウンして、頭の中にはユウキの目しか入らない。あの、炎が燃える、切ない目が。私を焦がれる目に、私は完全に捕らわれてしまった。

まさか、ダイゴにユウキが勝てるとは思ってなかった。
ユウキと私がいわゆる両想い状態なのはわかっていた。でもユウキに流されて、年上なのに主導権を握られてしまうのが嫌で「ダイゴに勝てたら」なんて言って彼の言う通り逃げてしまったのが今から2日前。なのについさっき私の秘密基地にやってきたコイツはこう言ったのだ。「ダイゴさんに勝ったよ」と。

「なぁ、いつまで言い訳するつもり?俺、そこまで我慢強くないんだ。…もう言っちゃうよ。俺はカナタを愛してる」

耳元で囁かれた言葉に、顔が一気に赤くなる。うわ、やばい、恥ずかしい。そして、同時に悟った。
私、絶対コイツには勝てない。

「『私に勝ったら』とかいうのはもう無し。カナタはどうなの?」
「わ、私も…です」
「私も、何?」
「わた…っ!…私も好きです愛してます!」

言ってしまった。恥ずかしすぎて死ねる。
そんな私をよそに、ユウキは「知ってる」と呟くと私をぎゅっと抱きしめた。

ユウキがこんなに押しが強いとは思わなかった。


賭け引きをしようか
(結末は最初からわかっていたけど)



※補足:ユウキ→←夢主なのはわかってたけど押せ押せなユウキに↑のように負けるのが嫌な夢主はユウキがダイゴさんに負けるか戦わなくて云々とか考えていたわけですが、ユウキ君はそれさえもお見通しだったのでダイゴさんを敢えてすぐフルボッコして↑のようにして「逃げようなんて無駄だよ」みたいな展開に追い込んだわけです。あれっこれユウキ君なんというドS…(^q^)
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