(き、緊張する…)

わたしは今、大きな校門の前にいた。真新しい制服が着慣れなくて落ち着かない。ほんと、大丈夫かなぁ…。




今年から通うことになる星月学園だけど、わたしは家の都合で4月の入学式に間に合わなかった。
今は5月。この学校は男子ばっかりで一人しか女の子がいないと聞いていたから、不安でいっぱいだ。
5月なんて中途半端な時期からだし、友達できるのかな…。

自他共に認める引っ込み思案なわたしとしては、ほんとに不安でしかたがない。でも学校には行かなくちゃいけないから、急いで職員室までの道を駆け抜けた(なんか通り過ぎた先輩達が驚いてた気がするけど、多分きっと気のせい!)。

深呼吸を一つして、職員室の扉に手を掛ける。
落ち着かなきゃ。人間、第一印象は大事だもん。
そうして覚悟を決めたわたしが扉を開いたら。

――ガラガラッピシャン!!

(あ、あれ?!勢いつけすぎた…?!)

予想以上に響いた音に、わたしは思わず肩を竦めた。職員室にいた先生達の目が、一斉にこっちを向く。
こんなはずじゃなかったのに…!

「ん?…あぁ、悪い」

恥ずかしくて俯いていたわたしは、不意に上から聞こえた声に顔を上げ、ぴしりと固まった。

「…おい、どうした?」
(何この人威圧感すごいこわい…!)

わたしの目の前に、いつの間にか男の人が立っていた。
男の人は扉に手をかけている。もしかして、この人と同じタイミングで扉を引いちゃったからあんなに大きな音がしたのかな。首元のタイを見れば、わたしと違う色をしていた。先輩だ。身長差があるからか、見下ろされてるというより見下されているように感じる。ほんとにこわい…!

そうびくびくとしていたわたしは、担任の先生に気づいてもらえるまでこちこちに固まっていたのだった。うぅ、情けない…。



「お前が季節外れの新入生だったのか」
「は、はい…」
「悪かった。…その、怖がらせたりして」
「い、いえ!わたしこそ、勝手に怖がってすみません」

担任の先生になんとか会うことが出来たわたしは、先程の先輩―――宮地先輩と話をしていた。
宮地先輩は、最初はびびりまくりだったけど、彼が無口でぶっきらぼうなだけだと知って、少しだけ怖くなくなった。あと、甘いもの好きなのも親近感が湧いた。

「先輩が甘いもの好きって意外でした」
「…似合わないよな」
「いやっそうじゃなくてですね!…良いと思いますよ。というか、女の子には寧ろポイント高いと思います、多分」
「どういうことだ?」
「ギャップ萌え、っていうんですか?わたしも友達から聞いたんでよく知らないんですけど」
「…そうなのか?」
「だからわたしもそこらへんはよくわかりませんって…」

だからそんな微妙な目で見られても困ります。
そう言うと宮地先輩は、ふっ、と笑った。

「本格的に授業に参加するのはゴールデンウィーク明けてからか?」
「はい。ほんと、すごい中途半端ですよね」
「部活とか、入る気はないのか?」

宮地先輩の言葉に苦笑いする。

「取り敢えず…ないですね。わたし、運動音痴というか、何をするにもトロくて。幼なじみにもよく心配されてたんです。…あっ幼なじみもこの学校の生徒なんです。宇宙科らしいんですけど…」
「そうか…俺は星座科だからな…」
「そうなんですか?わたしは神話科なんですけど星座科とどっちで出願しようかすっごく迷ったんです」

どっちも好きだし勉強したかったんで、それこそ出願するギリギリまでずっと考えてました。そう話すと宮地先輩は迷うわたしを想像したのか肩を震わせて笑っていた。
でもおかげで星座と神話どっちもそれなりに知識はある、つもり。

「神話科…そういえば俺の部活仲間に神話科が一人いたな」
「えっ本当ですか?」

それからのわたしと宮地先輩の会話の盛り上がりは凄かった。
お互いが知っている星座の話は勿論だし、甘いものの話も沢山した。引っ込み思案なわたしが初対面でこれだけ話せたのは、多分今回が初めてだと思う。それだけ沢山話しができた。

「此処で会ったのも何かの縁だ、わからないところがあったら遠慮無くききにこい」
「良いんですか?」
「あぁ。俺で良ければ」
「わ!ありがとうございます!…あ、それじゃあわたし、寮こっちなんで!」
「気をつけて帰れよ」
「はいー!―――うわっとっとっ!…さよならー!」

宮地先輩の言葉が嬉しくて振り返りながら走っていたら、思いっきり躓いた。あ、危ない危ない…!
なんとか踏ん張ってまた振り返ると、宮地先輩は呆れたような心配してるような微妙な顔でこっちを見ていた。うぅ、お恥ずかしい…!

何はともあれ、先輩に知り合いが出来たのはすごく心強い。宮地先輩は神話科の部活仲間という人にわたしのことを話しておいてくれるそうだ。
本当は今日は先生への挨拶が終わったら幼なじみのところに行こうと思っていたけれど、もしあの時宮地先輩と会わなかったら学科内に誰も知り合いがいない状態からスタートするところだった。先輩から聞いた話だと全学年合同で授業をすることがあるらしいから、その神話科の先輩に会うのが凄く楽しみ。

わたしは、最初とは打って変わって学校への期待に胸をわくわくさせながら1日を終えたのだった。
学校、頑張ろう!



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