私は大佐ほど意地の悪い人間では無いけれど。
でもほら、魔物には愛故に我が子を崖から突き落とすやつがいるらしいじゃない?
そう笑顔でのたまう彼女には悪いが、これはどう考えても愛の鞭どころか愛の釘バットな気がする。つまり重すぎる。
目の前でくたくたになっているジュードとレイアを見ながら、アルヴィンは一人思った。
「なんか失礼なこと考えてませんアルヴィンさーん?」
「いやなにも」
向けられた笑顔に笑顔で返しながら、アルヴィンは改めて彼女と自分の馬の合わなさを感じる。
恐らくこれは同族嫌悪。彼女はただほんわかしているだけの医者ではなく、酸いも甘いも噛み分けた曲者だ、と長年の自分の勘が告げている。
この女は言葉を、人を使うのが上手いと。
「アンタ強いんだな」
「まぁ伊達に女一人でふらふらしてたわけじゃありませんしねぇ」
そうにこにこ笑うナマエだが、アルヴィンは内心でその言葉を嘘だと判断した。
いくら二国が緊張状態にあるとはいえ、ラ・シュガルにあるル・ロンドからア・ジュールに行くだけでこんなに強くなれる訳がない。彼女の戦い方はどう考えてもかなりの場数を踏み、骨の髄まで自分の戦闘スタイルが染み付いているからこそのものだ。
「アルヴィンさんもやります?組み手」
「俺は遠慮させてもらいますよ」
「つれないなぁ」
ジュードとレイアを起こしながら言われた言葉を、アルヴィンは苦笑いで断る。流石にまだ死にたくはない。
「相変わらず姉さんは強いなぁ」
「まだ一回も勝てたことないし…やっぱ才能なのかなぁ」
これまでの旅で少しは成長したと思ったのに。そう肩を落とす二人の頭を優しく撫でて、ナマエは口を開く。
「大丈夫よ。二人共前より確実に強くなってるもの。…それに才能なんかなくたって強くなれるし、第一私には才能なんてないわ」
「そうなの?だって姉さん、昔から強かったじゃない。しかも独学でしょ?」
ジュードの言葉に「そうだけど、」と笑うと、ナマエは不意に遠くを向いて笑った。
「でも、結局は努力だから」
その目が「ここではない何処か」を見ている気がして、アルヴィンは内心で眉をひそめた。
そう言えば、先程の言葉にも気になることがあった。
“私は大佐ほど意地の悪い人間では無いけれど。”
「大佐」とは誰か。
階級であることからして軍人なのは間違いない。だが、彼女がア・ジュール国内で階級だけで呼ぶような人を、自分は知らない。ならば、別の組織か?
(俺が知らない勢力……まさかな)
そんなものは無い筈だ。だが、彼女の性格では白だとも言い切れない。
ましてや先程の彼女の実力。
(また随分とひねくれた…)
適度に隙を作り、敵を誘い込んだところで容赦なく潰す。戦い方にはその人の人柄が出るというが、彼女のあれは酷い。もしも相手が敵だったならそれこそなぶり殺していそうだ。それも笑顔で。
ましてさっきの口振り。笑顔が似合う彼女だが、もしかすると本当に彼女に似合うのは「陰険鬼畜」という言葉なのではないだろうか。
姉、困惑させる。
(笑顔の裏には、何がある?)
アルヴィンは姉主になるべく関わらないようにしていたり(苦手意識)。姉主はかなり才能があるけどジェイドという才能の塊のような存在が身近にいたので自分は才能無いとか思ってそう。因みに姉主はアルヴィンより年上(28位)です。