(姉、拒否する。の続き)

「あれでよかったのか?」
「なんのことでしょう?」

陛下の問い掛けに、私は笑ってそう問い返した。
…この話題はなるべくなら避けたいのだけど。

「言わせるつもりか」
「はい。言いたくないんで」

そう笑顔ではっきりと言えば、彼は「そうか」と言って黙り込む。
彼はきっと、先程のジュードとのやりとりのことを言いたいんだろう。あんな風に弟と別れて良かったのかと、そういう意味でさっきの問いをしたんだろう。

「…あの子はひたむきな子ですし、全員の平等な幸せを願う子です。だから、大丈夫」
「よく俺にそんなことが言えるな。ラ・シュガルほどではないにしろ、奴等を狙っているのはこちらとて同じだというのに」
「だって、貴方はナハティガルではないでしょう?」

彼とナハティガルは違う。そして私は、彼が狡猾な人間でないことをよく知っている。だから、彼は私を人質に交渉を迫ったりはしないと断言できる。
それに、と私は続ける。

「私がいなかったら誰が貴方やあれだけの兵士の健康を管理するんですか」

私がいなかったら、きっとこの人は精神的にも肉体的にも無茶をする。しかもその無茶が傍目ではわかりづらいときている。そんな人を放置する主治医がどこにいるというのだろう。

さらに言うと、ア・ジュールは連邦国家であり、完全な統一国家ではない。いくつもの国がそれぞれの特性や文化を持ち、共存するように暮らしている。そんな国をまとめあげられているのは他ならぬ陛下のカリスマ性と実力だけれど、やはりそれでも陛下を狙う輩はいるのだ。

そしてそんな奴等が一番良く使う手は毒殺だ。侍女だけでなく時には医師をも使うこの手段を、これまで私は何度も防いできた。私自身、金で雇われそうになったことがこれまた何度もある(勿論丁重にお断りして二度とそんな気を起こさないようにしてやったけど)。

そんな私がいなくなったら、誰が陛下を守るのか。自分で言うのもアレだけど、あらゆる毒を網羅していてしかも陛下に忠誠を誓える人間が、ア・ジュール国内に私以外にいるだろうか。

だから、私は陛下を置いていかないし置いていけない。
私はきっと、この世界にいる限り彼を放っておけないのだ。

(…って、私お人好しすぎない?)

そんなことを思いながら陛下の身の回りの雑用(侍女の中にラ・シュガルのスパイが見つかって以来こういった仕事は全て私に回ってくるようになった。なんでだ)をこなしていると、不意に陛下に呼ばれた。

「なんでしょ――わわわわわ」

振り向こうとした頭をわしわしと撫でられ(?)、見上げればすぐ傍に陛下が立っていた。悔しいけど…この人の気配っていつも全く読めないんだよね……!

「髪が悲惨なことになるので止めて下さいっていつも言ってますよねー陛下」
「…なら、ついてこい」

突然の彼の言葉に思わず「はい?」と訊き返すと(というかこの人私の言葉無視したよ)、彼は私を見てこう言った。

「お前は自ら戦の渦中に身を置く道を選んだのだ。…その志を忘れるな」

彼の言葉に、私は頷く。
これは私が選んだ道。後悔なんてしないし、志を違えるわけがない。

「…この命尽きるまで、貴方と共に」

ピオニー陛下には悪いけれど、私はこの命を彼のために使い、そして死ねたなら本望だと思う。


姉、誓う。

(もっとも、ガイアス陛下はそんなこと許さないんだろうけど)



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