アルヴィンがナマエを助けたのは、ただ金儲けの為だった。

仕事を探して町から町へとふらついていたアルヴィンが初めてナマエと出会ったのは、魔物が生息する森の奥深く。
魔物に囲まれているにも関わらず自分の体をきょろきょろと見回しているその姿にある意味感心しつつも、アルヴィンの目は素早く彼女の服装を捉えていた。

見たことがない形の服を着ているが、身なりは良さそうである。もしかするとどこぞのお偉いさんの娘で、何か理由があってこんな所にいるのかもしれない。何にせよ彼女を「金を取れる人物」だと判断したアルヴィンは、手にしていた銃で魔物の包囲網を外から破壊し、彼女を助けたのだった。

「大丈夫か?」
「おわ、ありがとうございます!いやー勝手がわからなくってパニックになってたから助かりましたー!」

アルヴィンの言葉にへらりと笑い、少女―――というより外見は女性に近いかもしれない―――は自らを「ナマエ・ミョウジ」と名乗った。

これが二人の初めての出会いである。

(「異世界から来ました」なんて暴露された時は焦ったわ…)

あと歳が21だと知った時も驚いたな。驚きすぎて殴られたけど。ていうか俺、骨折り損のくたびれもうけだったんじゃないの…?
そんな風に過去を思い出していたアルヴィンの視線の先には、エリーゼとティポとレイアときゃいきゃい盛り上がるナマエの姿があった。仮にも成人女性があんなんで良いんだろうか。

「…楽しそうだね、ナマエ」
「あれで俺と5つしか違わないのが不思議だな」
「でもあれが良いところだよね」

そう言って隣に腰掛けたジュードに苦笑いを返す。

「…アルヴィンとナマエって、似てる気がする」
「俺とあいつがか?」
「うん。気さくなところとか」
「そうか?」

似てないだろ、と口先ではジュードの言葉を否定しながら、しかし内心アルヴィンは彼に感心していた。まだ若いが、ジュードは無意識に人をよく見ている。それは今後の彼の成長においてはプラスになるだろう。正直アルヴィンやナマエのような腹に一物抱えた人間にとってはやりづらいことこの上ないのだが。

確かに、アルヴィンとナマエは互いが認める似た者同士である。表現の仕方が違うだけで、二人はのらりくらりとしており掴みきれないところがある。本音は晒さないしまずは相手の出方をうかがう。そうして危なくなるとうまく話の方向をずらしてしまう。

だが、アルヴィンは知っている。
あれでナマエはかなりの寂しがりなのだ。
いくつもの世界を渡り歩いてきたという彼女は人よりも多くの別れを経験してきている。大抵が前触れなく起こるというそれは、いつからか彼女から「友達」を作る気を奪っていった。
「仲間」はいても「友達」はいない。
背中を預けることは出来ても、それ以上の介入は拒んでしまう。それがナマエだ。

かつて、ナマエはアルヴィンの前で大泣きしたことがある。その時に、彼女はこう言った。

―――さよならはもう嫌なの…っ!

大好きな人達と一緒にいたいが、それはこの体質である以上叶わないのだと。そう悲しそうに、恨めしそうに言った彼女の様子は今でもしっかり覚えている。

そんな彼女だが、最近はどうやら心境に変化があったらしい。
というのも、エリーゼが仲間になって以来、他の仲間に対しても心を開き始めたのだ。

(『友達って、言ってくれたもん』、ねぇ…)

エリーゼは育った環境から「友達」というものに強い憧れがあり、またそれをとても大事にする。真逆の思考を持つ少女にナマエの心が、言い方はあれだが絆されてきているのかもしれない。正直言って複雑な気分ではあるが。

(…らしくもないな)

どうして複雑な気分になるんだ。そう考えても心の中に答えは見いだせなくて、アルヴィンは自嘲気味に笑う。どうやら、自分もまた絆されてきているようだ。

だが、とアルヴィンは考える。自分はきっとこれからも変わらないだろう、これ以上絆されることもないだろう、と。何故なら、自分は今ある種のビジネスをしているのだから。
傭兵として金を貰い、人の命を奪う。そこには相手がかつての仲間であろうとなかろうと関係のない、ひたすらに損得勘定のみのドライな世界が広がっている。それと同じだ。そこが、アルヴィンと今のナマエで決定的に違うところだ。

少し前までは本当に似ていたかもしれない。だが、今は違う。彼女は前へと歩き出し、自分は後ろに下がったまま。
それが寂しいのかもしれない。あるいは仲間に裏切られたような、そんな感じなのかもしれない。
だから、正確には「互いが認める似た者同士」ではなく「互いにが認める似た者同士だった」というべきなのかもしれない。


それは些細なこと


(それでも、その差は決定的で)



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