「バーナビー待って…!」

伸ばした手は空を切った。それでも手を伸ばすけれど、どんなに頑張ってもバーナビーには届かない。彼は、どんどん先に行ってしまう。

走れ。
速く。速く。
もっと速く!

急く心とは裏腹に、私の足の動きは重く遅い。
何かに躓いて、私の体は無様に前に倒れた。嗚呼、置いていかれる。立たないと。早く、追いつかないと!!

「待って…待ってよバーナビー!置いていかないで!バーニィ!!!!!!」

私の声に振り返りもせず、バーナビーはどんどん先へと行ってしまう。
お願いバーニィ、こっちを向いて。せめて、少しだけでいい、振り返って…!
嫌だ。一人は嫌。ねぇ、バーニィ、お願い、お願いだから…!

「一人にしないで、バーニィ!!!!」

ハッと目を開ければ、そこは見慣れた天井が広がっていた。伸ばした右手の向こうでは、帰ってきたばかりなのかバーナビーが驚いた顔で覗き込んでいた。

「…ナマエ?」
「…バーナビー…、お帰り、なさい」

体中が汗でべたついていて気持ち悪い。…嫌な夢だった。
なんとなく気まずくて笑顔を浮かべてみたけれど、どうやら逆効果だったらしくバーナビーの眉間に皺が寄った。

「…何か、食べる?作るからゆっくりしてて」
「要りません。…それより、貴女だ」

ベッドから出ようとした腕を掴まれて引っ張られる。そのまま包み込むように抱き締められて、私はどうしようもなく泣きたくなった。夢では感じられなかった彼の体温が、彼の匂いが、胸を締め付けて。

「バー…ニィ」
「僕は此処にいる」

頭を撫でられながら、耳元で優しく聞こえた声。途端に、私の目からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。
背中に腕を伸ばしぎゅっと力を込めれば、バーナビーもより強く私を掻き抱く。
このまま一つになってしまったら、こんな不安を感じなくて済むのだろうか。一つになってしまえば、置いていかれる心配なんて。

「…僕は貴女を置いて行ったりしない。そもそも、そんなの僕が耐えられない」
「……!」
「約束した筈です。…二人で奴等の尻尾を掴むと」

バーナビーの言葉に、胸が熱くなる。約束、覚えてたんだ…。
バーナビーと同じように、私もウロボロスに両親を殺されている。そして幼馴染みだった私と彼は、小さい頃に約束をした。二人で犯人を捕まえよう、両親の仇を討とう、と。
以来、私とバーナビーはそれぞれの人生を歩みながら、必死になって情報を集め、交換しあった。何をするにも互いの存在が心の何処かにあって、いつも互いを感じて生きてきた。
でも、最近は不安だった。バーナビーはNEXTだけど、私はNEXTじゃない。彼はHEROとして有名になって戦う力を得たけど、私には戦う力が無い。だから、足手まといになってしまうんじゃないかって怖かった。いつか、置いていかれてしまうんじゃないかって。だって、私の存在意義は、バーナビーと両親の仇を討つことにしかないんだから。

でも、そんなことなかった。そんなの杞憂だった。

「…二人で、絶対に奴等を捕まえましょう。僕は絶対、貴女を置いていかないし、離さない。…離せない」
「…っうん……」

こくりと頷けば体を離され、バーナビーの親指が私の涙を拭った。そして私の額にキスを一つ落とすと、今度は優しく抱き締められた。

「…なんで、わかったの?私が考えてること」
「僕が何年一緒にいると?」
「そう…だね。そういえば、そうだ」

そう言って小さく笑い合う。
なんで、バーナビーに不安なんて抱いたんだろう。よく考えなくても、バーナビーがそんなことする筈ない。私、馬鹿だ。

抱き合ったままベッドに倒れ込む。バーナビーの体温を感じながら、私は沈む意識の中でこの時がいつまでも続けばいいと願ったのだった。


スピネル
title by RURUTIA



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