「虎徹さんは狡いです」

私がそうぽつりと呟くと、エプロン姿の虎徹さんは「は?」とこちらを振り返った。

「俺、何かしたか?」
「してますよ、いつも。何回デートドタキャンすれば気が済むんですか」
「…悪い」
「っていうのは冗談ですけど」

そう言えば虎徹さんはなんとも言えない目を向けてきたけれど、敢えて無視して「鍋、焦げますよ」と私から注意を逸らさせる。ていうか料理位私だって作れるのに…。

「じゃあどうしたよ。ほれ、おじさんに話してみな」
「………」

ソファに座ってだんまりを決め込む私を見て、虎徹さんは小さく溜息を吐くと再び料理に集中しだした。
まただ。また、子供じみたことをしてしまった。一応バーナビーより一つ年上という立派な成人なのに。そう自己嫌悪に陥るのも今回で何度目だろう。でも、虎徹さんに対してはどうしても子供っぽくなってしまう。

鍋からいい匂いを漂わせている虎徹さんの背後に立って、背中に触れてみた。虎徹さんは私が近寄ってくるのを気配でわかっていたみたいで、特に反応することもなく作業を続けている。
なんだか寂しく思えて今度は腰に腕を回してみる。一瞬動きが止まったけれど、それ以外は反応無し。
するとなんだか悔しいような悲しいような気持ちが溢れて、私はつい虎徹さんの背中に本気で抱きついてしまった。そこでやっと虎徹さんは作業をする手を止め、溜息を吐くと鍋の火を消した。

「やっとおじさんに話す気になったか」
「………」
「おーいナマエちゃーん?」

振り返らない虎徹さんにもう少し粘ってみれば、彼は苦笑して振り返り私に向き直った。

「……だって、いつだってはぐらかすじゃないですか。いつもいつも、私だけが」

あ、駄目だ。言ってて泣きたくなってきた。
虎徹さんはいつもそうだ。いつもいつも、好意を口にするのは私だけ。好き、という一言を言うのも私。典型的な日本人タイプな虎徹さんは「守る」ということに関しては大サービスってくらい口にするけれど、「好き」だとか「愛してる」といったことは殆ど口にしない。
虎徹さんは言葉より態度で示すタイプだって、わかってはいる。それに虎徹さんが私を好きでいてくれていることも、雰囲気や仕草、何より目でわかる。
けど、足りない。贅沢なのかもしれないけれど、私は彼の愛の言葉が欲しい。

そうふてくされてぼろぼろと言葉を零すと、虎徹さんはおもむろに私の頭に手を置いた。そのまま緩く頭を撫でられて、私はされるがまま。
虎徹さんが口を開く。

「俺からしてみたらお前も狡いぞ」
「なんでですか」
「…年を取ると、思ったことを直球で言えなくなるもんなんだよ」

言い方がなんだかいつもと違う気がして「虎徹さん?」と声を掛けるけど、返事がない。照れてるのかな、と顔を上げようとしたら黙ってキャスケット帽を被せられ、視界を封じられてしまった。
虎徹さん、絶対照れてる。そう思って小さく笑った私を、虎徹さんが不意にぎゅっと抱きすくめる。いつもより密着して慌てている私の肩に顎を置くと、虎徹さんは照れながら私に一言囁いた。

途端に込み上げる幸福感。
ちゃんと口で言ってくれたことが嬉しくて、思わず私はハンチング帽が落ちたことも気づかず虎徹さんにキスをした。


年上の言い分、年下の言い分





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