「あのー…デンジさん…?」
「……」
「降ろしてくれたりする気はありません…?」

「流石にこの歳になってこれは恥ずかしいんですけど…」と小さく抗議をしてみた。しかしデンジはちらりとわたしの方を見ると「却下」と一言。

「まだふらついてる奴を歩かせるほど俺は鬼じゃない」
「だからっておんぶっていうのはですね…」
「横抱きの方が良かったか?」
「今のままで充分です」

デンジの提案に慌てて言葉を返せば、面白かったのか小さく笑われた。ちくしょう。

あれからジムを出てデンジの家に向かうことにしたのだけれど、わたしはまだ熱が引いたわけではなかったため平行感覚が僅かに狂ってしまっていた。そうしてバランスがうまくとれなくてふらつくわたしを、見かねたデンジが問答無用でおんぶして、今に至るのだ。

「せめて俵担ぎとか…」
「吐かない自信があるならやってもいいが」
「無理です…」

わたしの言葉に、デンジはまた笑って少し体勢を整える。大きく一回揺すられただけでわたしの頭の中や思考はぐらぁっと回り、思わずデンジにぎゅっとしがみついてしまった。

「っ…大丈夫か?」
「だ、だいじょぶ…眩暈がしただけ…」

どうやら今更になってまた熱が出てきたようだった。でもきっとこの体調に至るには「おんぶ」という今の状態も一役買っているに違いない。
というか、さっきから通行人の視線が恥ずかしすぎる。あのナギサのスターが女をおんぶして家に帰ろうとしているのだから、しょうがないといえばしょうがないのだけれども。

「もう少しで家に着くから吐くのは耐えろよ」
「は、はかないわよ…!」

そう言い返すと「そう言えるならまだ元気だな」とまたまたデンジは笑う。どうしたんだろう、今日はやけによく笑うな。
しかしそう思ってもわたしの今の状態ではうまく考えもまとまらずそもそも何かを考える気すら起きないので、わたしは早々にこの素朴な疑問を投げ捨てると大人しくデンジの背中に体を預けたのだった。



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