ナギサジムの裏口をロトムを抱えてうろうろするわたしは、不審者にしか見えないんじゃなかろうか。
そう頭の中で考えてはいても、足は動くことを止めないし、頭の中はぐるぐるとして纏まらない。ロトムの「入らないの?」と言いたげな視線が痛かった。あのね、わたしにも心の準備というものがね。

朝から元気の良いロトムによって叩き起こされたわたし(まさかお腹の上で思いっきり飛び跳ねられるとは思ってなかった。ちょっと吐きそうになった)は、気が変わらない内に、と思って朝食を食べるなり急いでポケモンセンターを出た。
でも、足を進めるにつれて昨日した決意もぐらぐらと揺れだして、何故かわたしはジムに行くより前に彼の家に向かってしまった。

いや、今10時だし。普通もう居ないからね。仕事してるからね。自分で自分にツッコミを入れつつ、「これでもし居たらジムを途中で抜けることになるより遥かに良いよね!」なんてよくわからない理由で自分を納得させて押したインターホンはやっぱりというか、むなしく辺りに響いただけでした。

そんな訳で微妙な遠回りを得てやってきたナギサジムなんだけれど。

「緊張してきた……」

わたしが最後にデンジを見たのは、なんと4年前のこと。あの頃、わたし達はまだ未成年だった。
あのオーバでさえ、2年前に久しぶりに会った時にはすくなくとも外見は変わっていたんだから(酷い?気のせいだよ)、デンジはどれだけ変わっているだろう。

厳つくなってたらどうしよう。昔はあんなにかっこ可愛い顔してたのに。
そんなことを突っ立って考えていたら、不意にロトムが腕から消えた。でも一瞬後には直ぐ腕の中に戻っていてほっとしたわたしは、そこでようやく辺りに「ピンポーン」という音が響いているのに気がついた。

えっ、まさかこの子、ジャンプしてインターホン押した…?

ちらりとロトムを見れば、何を勘違いしたのか凄く満足そうな、やりきった感溢れる笑顔を向けてくれた。可愛い。いやそういうことじゃなくて。
……まじですか。

『はーい』
「うぁ、あ、あの、すみません!デンジさんに用があるんですけども!」
『あ、今ちょうど試合終わったところです。少し待ってて下さいねー』

インターホンから聞こえてきたのは、若い男の人の声。ジムトレーナーかな。
扉の向こうで男の人がデンジを呼ぶ声が聞こえる。それに別の低い男の声が答えて、何やら言葉の応酬をしながら共にガチャリと扉が開く。

「ほらデンジさん!女の人が待ってますよ!」
「だから俺は忙しいって言ってるだろ」

扉を開けたのはインターホンを受けたジムトレーナーで、その後ろの方にデンジらしき頭が見えた。うん、あの金髪は間違いない。あれはデンジだ。

「酷くないですか?!折角来てくれたんですよ!」
「俺はそういうのが苦手なんだ。知ってるだろ?」

…ん?なんだか会話がおかしい。
この人たち、わたしを別な何かと勘違いしてる?

「…あの!わたし、ポケモンレンジャー協会の者なんですけども!」

声を張り上げると、ジムトレーナーさんもデンジも、すごくきょとんとした顔をしてこっちを向いた。あ、なんか面白い。
そしてさらに、デンジはわたしを見た瞬間「信じられない」というような顔をした。

「………ナツ…?」

その驚いた顔が昔と全く変わってなくて、わたしは思わず笑ってしまった。



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