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夢を見た。
その夢は昔からよく見ていて、何故かパターンが無駄に豊富にある。けれど私の設定は年齢を除けばいつも同じで、まるで一人の人の人生を追体験しているようなのだ。
そして、今日の私は12歳位だった。
黒い隊服のようなものを着て、何故か警戒しながら街を歩いている私。と、突然ひょこりと目の前にピエロの格好をした男の人が現れた。
そして、びっくりして叫んだ私に、ピエロはにっこり笑ってこう問い掛けるのだ。
『君、“―――”っていう子を知らないかい?』
◆ ◆ ◆
「おはよう!」
「ぐーてんもるげん!」
そう声を掛けると、燐は驚いたような声を出した。
今日は高校の入学式。私も制服を着て準備万端なのです!
いざ、正十字学園へ!
「雪男!?それに、夜尋!」
「ゴメン遅れて」
「初日から遅刻はマズいもんねぇ」
そう笑う私をメフィスト・フェレスがじぃっと見ていた気がしたけれど、敢えてスルーすることにした。
(見ちゃ駄目だ…!目が合ったら最後だぞ…!)
「兄さんと同じ学校に通えるなんて思わなかった」
そんな私と、心から嬉しそうにに話す雪男余所に、燐はメフィストをひっつかんで何やらひそひそ話をしている。
「なに話してるんだろーね?」
「なんとなく予想はつくけど…それより、」
と、雪男がこっちを向いて眼鏡をくいっと持ち上げた。…やーな予感するんだけどー。
「なんで夜尋も制服なの?夜尋、試験とか受けてる暇なかったよね?」
「こ、これはそのー…」
「それに祓魔師になるって…!」
「それは…(実際はもうなってるんですけどネー!)」
雪男の「意地でも理由を吐かせてみせる」と言いたげな視線が怖い。この子尋問とか向いてるんじゃないかなお姉さん君の行く末が怖いよ…!
「ぬーん…順番に説明すると、まず制服を着てるのは、私がこの学校に一年生として入学するからだよ」
「なんでまた…」
「私ドイツ行ってたけど、オルガン奏者の人に弟子入りしてて高校からは学校行ってないんだよねー」
勿論嘘だ。しっかりドイツの高校で勉強してましたとも。
「次に、私が祓魔師になりたい理由は簡単だよ。…雪男と同じ」
「…というか、夜尋はそもそもどうやって祓魔師のことを知ったの」
「メフィストさんからー」
「…そう」
私がそう言うと、雪男はメフィストの方を思いっきり睨みつけた。殺意こもりまくりじゃないっすか雪男さーん?
でも私が「一年生」として正十字に入学することに決めたのは、燐を守る為だ。燐をいつでも守るには、この年の差は辛い。かと言って教師になるのはそれはそれで兄弟に後々怒られること間違いなしなので却下。そういう経緯があって制服に腕を通すに至ったわけです。
…なんてことは言えないので適当に誤魔化すと、雪男は半信半疑ながらも許してくれたみたいでこれ以上追求してくることはなかった。よ、良かった…!
「―――生まれ育ったわが家に別れの挨拶はすみましたか?」
ほっとして燐の方を見れば、リムジンに乗り込むメフィストとぼうっと立ち尽くす燐の姿があった。私は雪男に先に乗るよう促すと燐の方に向かった。
「なにやってんのー。遅刻するよ!」
「夜尋!驚かせんな!!」
「ぼーっとしてる方が悪い!」
肩を叩けば驚いてこっちを向く燐。彼がさっきまで何を見ていたか知っている私は、笑ってその背中に下げた刀を掴んだ。
「早く行かないと!今は…前に進むしかないんだから!」
「わかったから引きずんな!歩くから!!」
今は前に進むしかないんだよ、燐。
ここからが君の始まりなんだから。
終わりはまだ来ません。始まってもいません。
Title by メルヘン