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守りたいから、強くなった。
この手は小さいけれど。まだ頼りないけれど。それでも失いたくないから、待ち受ける宿命に抗えるようになりたかったから、私はこの道を選んだのに。
ねぇ、せんせ。
私は彼等だけじゃなく、あなたも守りたかったんですよ。
◆ ◆ ◆
久しぶりに帰ってきた修道院は、まさに地獄絵図だった。
割れた照明に、荒れに荒れた室内。真っ暗な中、体中から血液を流して死んでいる藤本神父。
そして、その近くに泣きながらしゃがみこんだ幼なじみ。手には鞘に入った刀を持ち、俯くその姿は小さく震えている。微かに嗚咽が聞こえるだけの静かな部屋に、私の頭は一気に真っ白になった。
遠くでガタンと鳴ったのは、きっとスーツケースだ。アンティーク調でお気に入りだったのに、傷ついちゃったな。そんなどうでも良いことを考え出す私の頭は、今よっぽど現実逃避がしたいんだと思う。横にいた雪男の焦ったような声を背に、足は無意識に藤本神父の方に向かって。
「藤本…せんせ…?」
見下ろしたまま小さく呼び掛けるけど、倒れたその姿が起き上がる気配はない。
「ねぇ…せんせ…うそっていってよ…!」
こんなの嘘だ。…騙そうったってそうはいかないんだから。せんせいのことだから、その赤いのもケチャップか何かなんでしょ?そんな手の込んだことしてないで仕事しなよ。燐や雪男まで巻き込んで。ねぇ、そうなんでしょ?
そう思って縋るように燐を見れば、燐は辛そうに顔を歪めた。
「……ごめん」
「……そん、な…」
膝の力が抜けて、がくりと崩れ落ちてしまった。雪男が駆け寄ってくる音がする。
苦しそうな燐の一言で、私にはわかってしまったんだ。
燐が、覚醒してしまったと。
燐のことは、初めて此処に来た時に藤本神父から聞いていた。16年前の「青の夜」事件で両親を亡くした私は、親戚をたらい回しにされた後両親の知り合いだった藤本神父の元で暮らすことになった。
当時、私は親戚の家を転々とする内に人間不信になっていた。けれど藤本神父や燐、雪男と出会い共に暮らす内にそれは無くなり、少しずつだけど他人に心を開くことが出来るようになっていった。だから私にとって彼等はすごく大切で。そんな彼等がつらい思いをすることが耐えられなかった私は、藤本神父に「祓魔師になりたい」と告げたのだ。
両親のように、これ以上大切な人を亡くしたくなかったから。
そして私は、雪男が祓魔師になることを決めるまでは藤本神父からこの世界の悪魔について学んだ。雪男が祓魔師を目指すことを決める一年前から私は本部に引き取られ、そこで本格的に祓魔師になるべく日々を過ごしてきて、今に至るのだ。
因みに、このことを一応幼なじみである奥村兄弟は知らない。下手なことを言えば二人に止められるとわかっていたから。
大切な人たちを守りたい。その一心で祓魔師になったのに。
なのに。
「…ひっ…う、っ……!」
守れなかった。
大切な人を、守れなかった。
「せ…ん、せぇ……っ!」
傍らに雪男の気配がした。燐の視線がこっちを向いているのもわかる。二人共驚いてるだろうな。私、君達の前で泣いたことないもんね。
年上なんだからしっかりしなきゃと袖で顔を拭っても、涙は後から後から流れる。海ができちゃうんじゃないかって位の涙が溢れて、もう止められなかった。
そういえば、昔誰かに「お前は普段泣かない分、泣くと止まるまで時間かかる」って呆れられたっけなぁ。…誰だっけ?
「…夜尋……」
燐が掠れた声で私の名前を呼んだことも気づかずに、私はただただ泣き続けた。
とても素敵な夢でした
Title by メルヘン