「シューティングスター!」
ペガスモン―――パタモンのアーマー進化型であり、ペガサスに似た姿をしている―――の翼から放たれた星が胴体に命中するが、ティラノモンは痛くも痒くもない、といった体だった。続いて振り被られた爪の一撃を紙一重でかわすと、ペガスモンは上空に一旦引く。
タケルは数分前から変わらない状況に内心歯痒い思いをしていた。
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デジモンが暴れていたのはやはり瞭が通っている学校で、タケルは学校に着くなりパタモンをアーマー進化させたのだ。エンジェモンに進化させなかったのは、ティラノモンが近接戦闘に強いことを考慮した結果だ。そうして今まで攻撃しては引く、俗に言うヒット&アウェイを繰り返しているのだが。タケルはこの数分間ずっと微かな違和感を感じていた。
(…タフすぎる)
「タケル、これは―――」
「うん、みたいだ」
ペガスモンの疑問を含んだ声に、タケルは頷く。ティラノモンは成熟期のデジモンでありながらパワータイプの為、単純な力勝負では負けるかもしれない。だが、総合的にはアーマー体であるこちらの方が強い筈。なのに、こちらの攻撃にびくともしない。
さらに言うと、ティラノモンの様子がおかしい。
(ティラノモンはこんなに凶暴じゃなかった筈…)
このティラノモンの体毛は赤。つまりそれはウィルス種でもないということ。
(まさか…またデジタルワールドに何かあったのか…?)
嫌な予感に行き着き、タケルの顔つきは自然と真剣になる。
「タケルさん!」
「…光子郎さん!」
背後から聞こえた声に振りむけば、息を切らせた光子郎と、そのパートナーであるテントモンの姿が校門に見えた。
「タケルはん、大丈夫でっか?」
「僕らも戦いますよ!―――テントモン!」
光子朗の言葉と共に、彼が握っていたデジヴァイスが進化の輝きを放つ。光を浴びたテントモンはカブトムシに似た巨大なデジモン、カブテリモンに進化し、ティラノモンに向かっていった。
これで二対一である。
が、少しして光子朗も違和感に気がついたのか、その眉間に皺が寄る。
「…タケルさん、これは…?」
「…僕にもわかりません」
此方が圧倒的に有利な筈なのに、依然として変わらない戦況。幾ら戦いが単純な足し算でないとはいえ、これはおかしい。
「何が…起きてるんだ…?」
光子朗が口元に手を当て、そう呟いた時。
「あ、あのっ!!」
不意に校舎の方から聞こえたソプラノに、2人は驚いて振り返る。
見れば、一人の少女―――歳はタケルと同じ位だろうか―――がこちらへ向かって走ってきているところだった。
少女は必死になって走ってきたのか、タケルと光子朗の前に辿り着くとしばらくは膝に手を当て、肩で息をしていた。少女のただならぬ様子に2人が黙っていると、少女は息が整うなり、縋るような目でこちらを見て口を開いた。
「中に…っ蜂みたいな化け物がいて…っ…瞭が…友達が取り残されてるんです…っ!」
「それ本当?!」
少女の口から出た名前に、タケルは思わず少女の肩を掴んだ。その勢いに少々驚いた様子を見せつつ、少女は言葉を続ける。
「瞭は…私を助ける為に囮になって…っ!」
「今、彼女がどこにいるかわかる?!」
「多分…コンピューター室…地下1階の…階段降りた突き当たりにある…!」
「タケルさん、ここは僕に任せて、君は彼女の救出をお願いします!」
「はい!」
光子朗の指示に、タケルが校舎の方に向かおうとした、その時。
何かが割れる大きな音がした。
それは、例えるなら硝子が割れたような、鋭い音で。
「コンピューター室の方からだ…っ!」
「…っ?!」
悲鳴のような少女の言葉に、タケルは焦って視線を音のした方へ向けた。
見れば、学校のすぐ傍、堀のようになっているところから硝子片が吹き上がっていた。
そしてその硝子片と共に飛んできたのは。
「フライモン!!」
フライモンは勢い良く打ち上げられたかと思うと、何者かに一撃を喰らい、地面に強く叩きつけられた。その何者かは宙で器用にくるりと一回転し、音も無く着地する。
その姿に、タケルは目を見開いた。
視線がかち合う。
「あれは…デジモン…?!」
光子朗が、ノートパソコンを片手に困惑気味に呟いた。