「どうなってんのよおおお!!」

すぐ横を走っていた真琴が叫んだ。
タケル達が学校を目指しているその頃、校内は大混乱に陥っていた。





「叫んでないで、走って!!」

瞭はそう声を荒げると、背後に迫る低い音に走る速度を上げた。
校内に突如として現れたのは、ティラノモンだけでは無かった。瞭と真琴の後ろを低く唸るような音を立てて追い掛けてくるのは、蜂によく似た姿を持つ昆虫型デジモン、フライモンである。

「私食べても美味しくないいいい!!」
「だから黙って走れ!!」

真琴の叫びに叫び返しながら、瞭は自分たちが置かれている状況について頭の中で整理をした。

事の発端は、部活が終わって昇降口に向かうべく廊下を歩いていた時のことだった。偶然帰宅しようとしていた真琴に会い、一緒に帰ろうという話になったところで、真琴が何かを思い出して叫んだのだ。

「どうしたの真琴」
「忘れ物した!」
「え?……あ、私も忘れ物したかも」

そうして二人で四階にある教室に向かい、無事に忘れ物を回収したところで、ヤツが窓を突き破って襲来してきたのだ。

(どうしよう…)

瞭はパニックになった頭で必死に考える。この先は、確かコンピューター室があり行き止まりだ。それをこの生き物が分かっているのかは知らないが、このままでは、自分たちは確実に捕まるか食べられるかのどちらかだろう。さらに、他の生徒は避難したようで、少なくとも先程まで誰ともすれ違っていない。よってコイツの目が他の人に向くことは有り得ない。状況は最悪だった。

せめて、真琴だけは助けたい。
そう思った瞭は潔く腹を括ることにした。
真琴に並ぶように走ると、小声で話掛ける。

(真琴)
(な、何?)
(私が合図したら、その場にしゃがみこんで)
(何言ってんの?!死ぬって!)
(上手くいけば助かるから)
(上手くいかなかったらどーすんのよ?!)
(その時は2人仲良くお陀仏よ。…しゃがんで!)
(はああああっ?!)

叫びながらも、反射的にしゃがみこんだ真琴の頭上をフライモンが飛んでゆく。いきなり一人消えたことに気がつかなかったようだ。

「瞭!」
「外出て誰か呼んできて!」
「……分かったっ!」

必死な声で名をを呼ぶ真琴だったが、瞭の言葉に覚悟を決めたのか、その足音が遠ざかっていった。
瞭は、そのままコンピューター室に駆け込むなりすぐ横に隠れた。そしてフライモンがコンピューター室に入った瞬間に扉を閉め、鍵をかけた。
しかし、そこで瞭ははたと思った。…これから、どうしよう。
勢いでこんなことをしてしまった瞭だが、よくよく考えてみれば、今彼女は未知なる生命体と1対1状態である。…勝てる訳が無い。
だが、何処かしらに閉じ込めておかないと被害が拡大するのもまた事実で。
コンピューター室は手動の鍵が中にしかついていないため、必然的に誰かも一緒に入らなければならない。その意味をよく考えていなかった瞭は、背中に嫌な汗が伝うのを感じた。

「早く誰か見つけてきてよー…」

此処にはいない友人に向けて呟きながら、瞭は目の前で不気味に動くフライモンを見つめた。
フライモンが、振り返る。

(やばい、死ぬかも)

ゆっくりと飛んでくるフライモン。その尻尾から勢い良く針が飛んできた。必殺技のデッドリースティングだ。

避けることなど不可能だった。これまでか、と瞭は目をぎゅっと瞑る。


―――刹那、傍らのパソコンから眩い光がほとばしった。


光はやがて一つの塊となり、跳躍すると勢い良く針を叩き落とした。だが瞭はそのことに気づかず、相変わらず目を固く瞑ったままだった。

「…もう大丈夫、瞭」

瞭の耳に穏やかな声が響いた。いつまでも来ない衝撃と聞き慣れない声に、恐る恐る目を開く。
すると、そこにいたのは。

「……え…」

狐によく似た姿をした、謎の生き物だった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -