がさがさがさ、と草木を掻き分け、私は森を走っていた。
繋がれた手は私を優しく導き、木々の隙間から差す光は眩しくも心地良い。

道が開けた。
そこにあったのは、私が小さい頃から探していた、光り輝くあの場所。

嬉しくなった私は、頭上から聞こえる制止の声に気づかず奥へと進んで―――





パイプオルガンの後奏で目が覚めた。瞭はふるふる、と軽く首を振るとチャペルを出る生徒の列に並んだ。週一でSHRの代わりに行われる礼拝も、そこで話される説教も子守歌にしか感じられないのはきっと自分だけではない筈だ。そんなことを思いながら教室に戻り、次の時間の準備をしていると。

「おはよー瞭!ね、今朝のあの子誰?!」
「おはよう真琴。…今朝のあの子、って?」
「とぼけないとぼけない!ほら、金髪に碧い眼の子だよー」

「クラスじゃ有名だよ!?」と目をきらきらさせる友達に、瞭は脳裏に今朝途中まで一緒だったお隣さんを思い浮かべた。

「……ああ、タケル君?」
「へー、タケル君って言うんだ…っていうか何、あんたらもうそんな仲なの?!」
「そんな仲って…ていうかなんで知ってるのさ?」
「有名だ、って言ったでしょ?同じ方向から登校するクラスメートのほとんどが目撃したって言ってるんだよ!あー私も見たかったなー」

本気で悔しそうな真琴に苦笑いしつつ、瞭は口を開く。

「タケル君とは何もないよ。ただお隣さんなだけ」
「うっそ!あんな子がお隣さんなんて羨ましー!!男に興味無いんだからその無駄にある運を私に頂戴!」

「せめてクリスマスまででいいから!」とこちらに詰め寄ってきた真琴に内心引いていた瞭だったが、突然「あ、」と声を上げた。

「どうしたの?」
「予鈴…鳴るよ?」
「ちょ、それ早く言ってよ!」

「次移動教室じゃん!!」と叫んだ真琴と二人で、大慌てで教室を飛び出した。


◆ ◆ ◆


階段教室に教師の単調な声が響く。5限目なのもあってか、その声は多くの生徒を眠りの世界へと誘っていた。
そんな中、瞭はシャーペンを握ったまま、ふと窓の外を見た。
窓の外には並木道が広がり、植えられた木々の隙間からは青空が見える。

(高石タケル君、か…)

あの後真琴はさらにどこからか彼について情報を掴んできたようで(流石新聞部だ)、昼休みになって興奮気味に瞭に話してくれた。
曰わく。

「高石君っていったらお台場高校じゃ王子様らしいよ!?しかもバスケ部期待のエースで早くもスタメン候補なんだって!入学早々からファンクラブができちゃった位人気らしいし!」
「へ、へー…」
「へー、じゃないよ!そこは普通『すごーい!』とか歓声上げるところだって!」
「だって…凄いなぁとは思うけど、興味ないし…」

いまいち盛り上がらない瞭に溜息を吐き、真琴は「まぁそうよね」と口を開いた。

「そういうの気にしないのが瞭のいいとこだもんね」
「はは、ありがとう」
「…ハッ!だから瞭は男友達も多いのか?世の男子諸君は気楽にいられる女子を求めているのか?…ということでー瞭さーん」
「取材は受けないからね」

「猫なで声出してもダメだよ」と瞭が言うと、真琴は「えーいいじゃんケチー」と文句を言った。

「私が部長になるためのお手伝いだと思ってさ!ね!」
「そんな記事誰が得するの?っていうか、第一、学校新聞をそんな風に使うもんじゃありません」

瞭の言葉に、真琴はわかってるとばかりに手をぱたぱたと振って「冗談だよ」と言ったのだった。

(タケル君有名なんだ…。だから別にどうってわけじゃないけど……)

でも確かに、あの空色の瞳と金の髪は何度見ても(といってもまだ二回しか会っていないが)綺麗だと思った。物腰も丁寧そうだし、彼ならきっと白馬に乗ってやってきても違和感が無いだろう。

結局、瞭はそうして退屈な午後の授業をろくに聞かずに1日を終えることになったのだった。




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