「タケルは良いよなー」
「どうしたの、大輔君」
「お前今朝のこともう忘れたのかよー」
「…あぁ、あれ」
「あぁ、じゃねえっつの!…ったく、お前本当モテるよなー」
「大輔君だって人気じゃない、男の子に」
「男に好かれても嬉しかねーよ!!」

ぎゃおう、と叫ぶように言った大輔にひとしきり笑ってから、タケルは「違うよ」と言った。





「違うって何がだよ?」
「僕と彼女はそんなんじゃないって。大輔君まで信じてくれないの?」

今朝の登校の後、タケルはクラスに入るなり、遅刻した大輔以外の男子全員の質問責めに遭ったのだった。あの子は彼女なのか、いつ会ったのか、どうして知り合ったのか。酷い者は「どこまで進んだのか」とまで聞いてくる始末。タケルはそれらの質問を一つ一つ冷静に否定していたのだが、テンションが上がってしまった彼等が聞き入れる筈もなく、それは放課後である今になっても収まる気配がなかった。

「彼女はつい昨日、僕の家の隣に越してきたんだよ」
「つまり、お隣さんってことか?」
「うん、そういうこと」

「みんな信じてくれないんだよね」と苦笑いしたタケルを見て、大輔は乾いた笑いを浮かべた。

入学早々に校内で格好良いと評判になった彼のファンはとても多い。それは、何人の男子がフられる際に彼の名前を聞いただろうか、という位に。故に校内の男子はタケルが早く誰かと付き合うことをそれはもう切に願っていた。

そんな中訪れた、今朝の光景。

相手はなかなかの美人な上、他校ときた。これならば修羅場を見ることも無いだろう、と彼等が浮かれるのは当然のことなのだった。

「これだからコイツは」という大輔の呟きに首を傾げながらも、タケルはバッグを肩に掛け部活に向かった。

(それにしても…)

体育館に向かいながら、タケルはふと今朝会った瞭の顔を思い浮かべる。
実は、初めて会った時、少しだけ驚いた。というのも、彼女が持つ雰囲気が、自分の知る「女の子」とはかけ離れていたからだ。

(話すまで女の子って実感が無かったんだよね…)

彼女が持つ雰囲気には年頃の女子が持っている「女の子」らしさが欠片もなかった。顔付きもそうだが、どこか中性的で曖昧なのだ。そのぼんやりとした「狭間」にいる瞭は酷く浮き世離れして見えて、ほんの一瞬、どうしたら良いのかわからなくなってしまったのだ。
浮き世離れしているといえばヒカリも時々そんな雰囲気を出す時があるが、あれはもっと女性的だ。

それに、とタケルは考える。
思い浮かぶのは瞭の表情、動作、会話。

(もしかしたら「似てる」のかもしれない)

ほわりとした淡すぎる笑顔。完璧すぎる丁寧な口調。スマートな所作。ところどころで垣間見えた、どこか悟ったような態度。
子供らしさを置き去りにして身に着けたようなそれを、彼女もまた持っていた気がした。




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