―――ピンポーン
日曜日の朝10時。珍しく部活が無くゆっくりしていた時のことだった。手が塞がっている母、奈津子の代わりにタケルが扉を開けると、そこに居たのは若い、女性というよりは少女のような人が紙袋を持って立っていた。
「朝早くにすみません。今日から隣に越してきた高科瞭です」
「…あ、はい。高石タケルです。宜しくお願いします」
「あらあら…ごめんなさいね。少し手が塞がってたものだから」
「いえ、そんな」
遅れて現れた奈津子の言葉に笑いながら、少女は「つまらない物ですが、」と紙袋を差し出してきた。
「わざわざありがとうね。もしかして一人暮らし?」
「はい」
「そう。大変でしょう?」
「えぇ、まぁ…」
「何かあったら言ってね」
「ありがとうございます」
にっこりと快活そうに笑った少女と目が合って、タケルもにこりと微笑んだ。
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「お隣、外人さんかな………」
ソファに勢い良く座ると、瞭はお隣の男の子を思い出して溜息を吐いた。ハーフかクォーターだろうか、髪は自然な金髪で瞳は澄んだ蒼色だった。思わず一瞬ぽかんとしてしまったことに気づかれやしなかっただろうか。
(考えてもしかたないか……)
そう思い直し、瞭はもう昼食を作ってしまおうと腰を上げた。高石さんにお昼を一緒に食べないかと誘われたが、迷惑になるだろうと思ったので遠慮させて頂いた。
キッチンに向かいながら、ふとリビングのテーブルの上に立ててある写真に目がいった。
写真には花畑と、その中心にある綺麗な湖。全体がぼやけて見えるほど綺麗なパステルカラーに、何故か胸が締めつけられる。一人暮らしを始める時に実家から持ってきたものの一つだが、瞭は自分でも何故この写真に惹かれるのかわからなかった。
「…何処の写真なんだろう…」
手に取って眺めてみる。
昔いろんな人に尋ねたことがあったけれど、誰もこの場所は知らなかった。
いつか、この場所が何処なのか見つけること。
それが、小さい頃から変わらず持ち続けている瞭の密かな夢だった。