「驚いたよね、いきなりあんな話されて」
帰り道の途中で、タケルがふと口を開いた。
「まだ実感は湧かないかな。…でも、ポコモンがここにいるのが事実だっていうのはわかるから、そこまででもないかも」
「肝が据わってるんだね、瞭ちゃん」
「なんか、今日のことで耐性がついたみたい」
「すごかったもんね」
人通りの無い住宅街を笑いながら並んで歩く。街はいつも通り平和で、瞭は今日起きたことが全て夢なのではないかと思いそうになるほどだった。
「タケル君はいつからテイマーなの?」
「僕は小2の頃」
「そんなに昔から!?」
「うん。その頃はまだ8人しかいなくて、呼び方も『テイマー』じゃなくて『選ばれし子供達』だったんだ。いろんな人にパートナーデジモンが現れ始めたのもここ最近からだし、まだそんなにデジモンは認知されてない」
そうして、タケルは自らがテイマーになった経緯を簡単に説明した。小2のサマーキャンプの時の出会いと別れ。そして、小5の時の再会。他の仲間の話や、デジタルワールドのこと。波乱に満ちたその話に、瞭はただただ聴き入るばかりだった。
「凄い…物語みたいだね…!」
「自分でもそう思う時があるけど、全部本当に起きたことだよ」
「…いろんな経験してきたんだね」
「うん。時には凄く辛い思いもしたけど…でも、それがなかったら今の僕はいなかったと思うんだ」
そう言う彼の顔はとても穏やかで、瞭はタケルがとても眩しく思えた。
「…私、実はずっと昔から探してるものがあるんだ」
「探してるもの?」
「もの、っていうか、場所なんだけど。誰に訊いても『知らない』って言われるんだ。いつかそこを見つけるのが、私の夢」
「どういう場所なの?」
「綺麗な淡い色の花が沢山咲いてて、真ん中に綺麗な湖がある場所。森を抜けた先にあるんだけど…」
「うーん…ごめん、僕も知らないや」
タケルの申し訳なさそうな言葉に、瞭は笑って「気にしないで」と言った。
「自分で見つけたかったから、タケル君が知らなくて逆に良かった。楽しいことは終わるのが早すぎるとつまらないから。ねっポコモン」
「!あ…あぁ」
「どうしたの?」
元気がないことが気になって声を掛けると、ポコモンは慌てて「ちょっと寒いだけ」と言って瞭に体を擦り寄せた。
「寒がりなんだね。…あ、着いた」
「話に夢中になってたから、気づかなかった」
「僕もだよ。…それじゃ、またね、瞭ちゃん」
「うん。今日はありがとう、タケル君」
◆ ◆ ◆
「これが瞭が探している場所?」
夕飯を食べ終えてゆっくりしていると、ポコモンが写真に近づいて言った。
「そうだよ。ポコモン、見覚えない?」
「……ない。力になれなくてごめん」
しっぽを下げしゅんとしたポコモンを、瞭は笑って抱き上げた。
「いいよ、別に。二人で見つけた方が、きっと楽しいから」
「………」
「うーん……そうだ!ね、お饅頭食べたことある?」
「おまんじゅー…?」
「甘くて美味しいんだよー!ちょっと待っててね」
瞭はぱたぱたとキッチンに向かうと、スーパーで買った茶色いお饅頭を2つ持ってきた。一個をポコモンの前に渡し、もう一つを口に入れる。
ポコモンはしばらく目の前に置かれた物体を観察していたが、恐る恐る一口かじった。そして。
「!おいしい…!」
きらきらとした目をして勢い良く食べきってしまった。
「瞭!もういっこ!」
「もう無いよ。明日また買ってくるね」
「約束だぞ!絶対だぞ!」
そう嬉しそうに言うポコモンに、瞭は笑ってその頭を撫でた。
「これからよろしくね、ポコモン」
「よろしく、瞭」