110611 虎と一般人の女の子

細い腕が立ち去ろうとする体を後ろから抱き締めた。縋りつくようなそれに、虎徹は思わず足を止める。
行かないで。少しして小さく聞こえた声に、虎徹は腕の主に向き直った。うっすらと涙が溜まった瞳を捉えてどうしようもなく罪悪感に苛まれるが、今の自分は鏑木・T・虎徹ではなく、ワイルドタイガーなのだ。そして彼女は二人がイコールの関係であることを知らない。
頬に伸ばしかけた手をハッとして頭に乗せる。今はこの涙を拭ったり抱き締めたりすることは出来ない。この涙を拭うのは、抱き締めるのは鏑木・T・虎徹の役目であり、ワイルドタイガーの役目ではないのだから。
大丈夫。俺があんな奴ら倒しちゃうから。そう頭を撫でながら優しく言うと、彼女は小さな子供のようにこくりと頷いた。
怪我、しないでね。その言葉に頷けば、彼女はやっと笑って、ヘルメットの額にキスを一つ。目尻から零れた雫を拭うこともなく、彼女は一言。
いってらっしゃい、頑張って。その言葉はいつも朝仕事に向かう虎徹に向かっていうものと同じで。虎徹は少し迷った後、いってくる、といつもと同じ言葉を返したのだった。

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