トウヤとトウコ
(日曜の夜十時)
星が綺麗な、そんな夜のカナワタウンで一人、柵に全体重を預けるようにもたれ掛かりながらスーパーマルチトレインというらしい、緑のラインの入った列車を眺めていた。鉄道にこれといった興味は無いが先程近くのお兄さんに半ば強引に説明を聞かされたところだ。
ここは普段忙しなく走り働く鉄道達が休む静かな町。何処かから聞こえる、ゆったりとしたコントラバスの低音とお洒落なピアノの音色に耳を傾けて目を閉じた。
心地よい風に吹かれてゆっくりと幸せを感じながら、瞼の裏に曲線を描いていた。
どれくらいの時間、そうしていたかは定かでないが、とん、と肩をたたかれたので静かに瞼だけ開く。この体温を私は知っている。私は記憶した温もりに顔を上げた。
最近、自分はいったい何をしているのだろうか、と思うことが多々あった。
図鑑の完成。それは当然だ、旅を始めた頃からのわたしの目標。だがそれすら今の自分の前ではただの大義名分のように思う。目的はあるようで無かった。図鑑の完成は私でないといけないはずはない。
(わたしは、わたしが、いきて、ここにいるいみが、わからない。)
だだ生きて生きているだけ。考えてもわからないし心はもやもやして頭は重くなるばかりだった。
「こんな夜遅くにどうしたの」
ちょっと、休んでたの。彼の深い瞳は本当の意味でわたしを落ち着かせた。心配そうな顔でこちらを見るので、いつも彼がそうするようにわたしは微笑んでみせた。
「トウヤ、今夜は寝る前に観覧車乗ってかない?」
私を映した瞳のまま私が最も望む表情をしてみせた彼は、静かにこの手を引いた。