いもむしさんに頂きました、
兄神(銀魂)文です
ありがとう大好きムフ






「結局プールすら行けなかったね」
「お前のせいだこのやろー」
「だってずっと晴れっぱなしだったんだもん」
 けらけら兄は笑って水を掛けてきた。
 公園の隅の水飲み場の、小さな噴水のように水の出る蛇口から出る勢いのよい水の進路方向を手で繰ってわたしにぶつけてくる。思いきり顔面にぶち当たって端から見たらものすごく汗を掻いているような人になってしまった。
「…………」
「あはは、マジで当たるとは思わなかったよ」
 ごめんごめんと軽く謝ってくる兄に心底呆れてそっぽ向いた。お、と兄は機嫌を悪くしたわたしを見て楽しそうにする。
「怒った?」
「……当たり前ヨ」
 しばらくわたしが黙り込んでいるとよし、と兄が呟いた。
「アイス買ったげるから許して?」
「…………」
 うだるような暑さに汗が幾筋も背中を伝う。わたしは無意識にそれに釣られて兄が近くの冷たいものを売っている店に行くのにふらふら付いていってしまっていた。





「はいこれブルーハワイ」
「さんきゅーアル」
「どういたしまして」
 結局アイスは売っていなかったが、小さなかき氷を売っている店があったのでそこで休むことにした。番傘を側に立て掛けて店の椅子に座る。店の壁にくっついている扇風機から起こる風が心地よかった。氷の天辺をスプーンですくい上げていると、隣で兄が独り言を言う。
「……夏が終わるねえ」
 思わず兄を振り返った。無色の氷をざくざくやりながら兄が呟く。わたしは兄がみぞれ味を選んだことが不思議で仕方なく思ってばかりいた。
「でも、まだまだ暑いヨ」
「そうなんだけどさ」
 ざく、一通り気の済むまで崩したらしい氷の山をすくって兄は口に運んだ。わたしも青い氷を口に含む。気持ちのいい冷たさが口の中に広がっていく。
「日が暮れるの、早くなってきたね」
 いくらか普段より沈んだ声で呟くと兄はまた氷をざくざくやり始めた。その瞬間、そうだ兄の夏休みはもうすぐ終わるのだ、ということに気付く。
「そろそろ仕事に戻らないと、俺がいないから仕事が溜まって阿伏兎が疲労でぶっ倒れちゃうよ」
 全くもって阿伏兎は兄がいなくとも平気だと思うのだが。兄も分かって言っているのか真剣に言っているのか知らないが、その時の笑顔はただ悲しげでそんなことはどうでもいいのだと思ってしまった。
「いつ、また地球に来られるの?」
 わたしが尋ねると、そうだなあと首を捻ってわかんないやと答えた。
「……そっか」
 ざく、氷をすくう。蝉の鳴き声がした。そしてちょっと寂しいなあと思った。
 もうすぐ夜の五時である。
「神楽、ほら」
 兄がふと指差した先の青空の先が橙色をしている。綺麗だねえと兄が呟いた。不意に今年感じなかったはずの塩素の匂いと息が詰まりそうなほどの熱を持った空気が肺に吸い込まれていく。近くを濡れた頭をした子供たちが歩いていった。塩素の匂いが強くなった。兄を見ると何故か申し訳なさそうな表情をしていた。
「夏、終わっちゃうネ」
「ごめんね」
「何が」
「折角の夏だったのに何も出来なかったよ」
「……」
 わたしが返事に詰まって黙っていると兄の青い瞳が揺らいだ。わたしは笑っていいのヨと答えた。
「また、ここに来てくれれば、それで」
 夏は今回で最後な訳じゃない。来年だってやって来る。そっか、と兄はやっと安堵したように笑った。
「また来年だね」
「絶対ヨ」
「うん」
 すっかり空になった器を店のごみ箱に捨てて椅子から立ち上がる。店を出て見た空の半分はもう橙色をしていた。
「送るよ」
「アリガト」
 どちらともなくなんとなく手を繋ぐ。冬にまた来るからと言った兄の手は氷を持っていたからかひんやりとして気持ちがよくて、離したくないと思った。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -