後輩いじめも程々にしてください
3人で博士にあいさつをして久しぶりに僕の家に集まった。妹は幼稚園でクリスマス会だとかで家にはいない。というわけで俺の家で何かしら騒ごう、となったのだ。
2階に上がり、テーブルを出すとジュンが手際よく買ってきたお菓子を開けてゆく。紙コップのコーラで乾杯して、何となくうだうだと会話が続いた。といってもこの面子だとポケモンの話、旅の話ばかり。お互いに変わらないねとか懐かしみながら2時間程経った時、ジュンがDVD見ようと言ったのでヒカリがさっき借りてきたDVDを出して再生した。
見始めて1時間程経った時、ジュンが大きな欠伸をした。それを俺とヒカリが同時に見る。
「ちょっとジュン…」
「まぁ面白くないよね、これ」
「なんだコウキも思ってたんだ、なんでヒカリこれ借りたの」
「…友達に面白いって勧められたの!」
彼女が、あーはめられた、と言いながらやや乱暴な手つきで停止ボタンを押して取り出したDVDを片付けるのを眺めながら俺は呟いた。
「もう6時だけど、お菓子とか食べてたからお腹空かないね」
「DVDごめんね。…今からどうする?」
「よし!ゲーム大会しよう!」
沈黙を破り意気込んだジュンが俺のWiiをいじりだした時、ヒカリのポケッチが鳴った。彼女はお母さんだ、ごめん、と言って部屋の隅で電話を取った。
「もしもし。晩ごはん?今日はいらない…え?違うって、そんな話するメンバーじゃないってば…切るよ?」
電話を終え、彼女が輪に戻ってきた瞬間を見計らって俺が一言。
「へぇ、ヒカリ恋バナなんかあるの」
「ちょ…そんなの無いって…ママが勝手に言ってるだけってかなんで知って」
「ヒカリの母さんってそうゆうとこ、若いよなー。よしよし、恋バナしようぜ恋バナ」
うろたえるヒカリを流して興味を持ったジュンが話にのってきたのでそれに合わせて俺が一言。
「じゃあジュンも好きな人いるの?」
「なな、なんで俺」
「いるんだ」
「悪いか」
頭をぐしゃぐしゃと掻いてそっぽを向かれたので何気なくヒカリの方を見ると、ヒカリは俺の方を見ていたようでばっちりと目が合ったが、すぐに慌ただしく逸らされた。まさか、というある考えが浮かんでしまったが俺はそんな自惚れ屋ではないから気付かないふりをした。
「で、誰なの」
「質問直球すぎるだろ」
「さぁほら先輩に話してみなさい」
「………。」
「あ〜、」
ヒカリとか?とずばっと図星を当ててやるつもりが、その瞬間にまたヒカリと目が合ってしまったものだから俺は思わず言葉を止めてしまった。おいおいおいおい、まさか、まさか違うよな。もちろんまたすぐに逸らされたのだが一瞬合っていた瞳は熱を帯びていて、下を向いてしまった彼女にはやはり焦燥の色があって、心なしか頬が赤く染まっていて、それに気づいた俺の心拍数は確実に上がった。
「…あ、お、俺なんか飲みもの買ってくるよ!」
俺が一瞬目を逸らした隙に、きょろきょろと目を泳がせながらジュンは素早く席を立ち、風のごとく部屋から出ていった。
おいふざけんなよジュン、ちょっと待てこの状況で逃げるとかお前、後で覚えとけよオラ。心の中で空気の読めない後輩に思いきり暴言を投げ掛けているところでヒカリがこほん、と小さく咳をした。二人しかいない中で沈黙だから、その女子特有の小さく高めの咳だけが部屋に響いた。
「ヒカリももうそんな年かぁ」
「なにいってんの、言うほど変わらないでしょ」
「いや、やっぱり女の子なんだなぁって思ってさ」
「なにそれ、失礼ー」
この沈黙を打開したくてとりあえず発言してみたが、なんだかもう駄目だ。くじけそう。消えたい。2人だけのこの空気は非常にまずい、つらすぎる。心臓は痛い程ばくばくいってるし息がつまったみたいに苦しい。
ところで俺は先程から平然を装うためにひたすら目の前のグラスを見つめて目線を固定しているが、視界の端には彼女が映っている。彼女の方はどうしても向けない。向けば必ず目が合うだろう。この流れこの空気で彼女とは絶対に目を合わせたくない。
初めはお馬鹿なジュンで遊ぶ為だっただけなのに。数分前の自分を殴りとばしたい。あいつはまだ帰ってこないのか。迎えに行こうか、うん、俺は優しい優しい先輩だからね。2人きりで沈黙、という現在の状況を認めたくなくて現実逃避のようにひたすらどうでもいいことに思考をめぐらせる。ああやっぱり腹減ったなぁ、ジュン帰ってきたらなんか食いに行くか、でもこの時間どこも混んでそうだな、
「コウキくん」
心なしか震えた小さな声が俺の名前を呼んだ。反射的に顔を上げたが、相手の顔は見れなかったので喉元あたりを見た。白い喉がこくりと鳴った。それを見たら余計に目から熱くなって視界がちかちかしてきた。息が、苦しい。
なに。
返事をしようと口は開けたけれど、口の中はからからに渇いていてすぐに声にならなかった。返事の代わりに目線を上げて今度こそ彼女の目を見た。潤んだ瞳の彼女はまた何か言おうとして口を開いた。でもそれを遮るように俺が彼女の名前を呼んだ。
ああ、ほんとにジュンは空気の読めない馬鹿な後輩だよ。あとでボッコボコにしてジュース奢って慰めてやるよ。だから、頼むから、しばらく帰ってくるな。
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「クリスマスにコウヒカでいちゃいちゃ」
いちゃいちゃしてねえええええ
ごめんなさい甘甘を目指して書いてたんですけどなかなかに私のコウキくんは奥手でした
ちょっとこれは悔しいのでリベンジさせていただきます…
リクありがとうございました!